『涙』
同じことを繰り返して何も刺激がない毎日には、泣くことも珍しい。
最後に涙を流したのなんていつだっただろうか。
涙を流すような事に巡り会う事さえ変わり映えのしない日々を送る人にとっては幸せな出来事なんじゃないか。
泣くことさえもなくなってしまった日々に、嫌気がさしてしまう。
ただ、、
毎日通う職場の道中にあるベンチの上に、いつから置かれているのかわからない手袋がある。
恐らく子供の手袋と思われるその小さな手袋は片方だけがポツンとベンチに置かれている。
ワタシはそれを透明の袋に包んであげた。
3日前に包んであげた手袋は、今日の朝には無くなっていた。
ベンチの上にはメモが入った透明の袋が置かれていて、そこには 『ありがとうございます』と書かれていた。
少しだけ、涙が出そうになったが、今日は良い気分で1日を過ごせそうだ。
結婚したら、一緒に沖縄に旅行に行こう。
沖縄から帰ってくる時にディズニーランドに2泊して、
ディズニーランドから帰ってくる時は東京を観光しよう。
新婚旅行で連れて行く約束もして、旅行の予約もした。
新婚旅行の1週間前、僕は運転中に意識を失ったまま街路樹に突っ込んだ。
僕は知らないうちに病気を患っていた。
旅行はもちろんキャンセル。
気丈に振る舞っていた君を見るのが尚更と辛かった。
いつか病気が完治したら、旅行に連れて行くからと謝ることしかできずその約束はいまだに叶わない。
君と交わした約束が僕が頑張れる糧になる。
必ず約束を果たす為に、今も気持ちを前へと向けて、
強く強く、一歩一歩と。
いつまでも、友達として肩を並べているのが本当の理想。
アホな事して笑って、何人か多数で集まって、事あるごとに季節に合わせたイベントで盛り上がって。
お気に入りの音楽や映画を共有して、みんなでお酒でも呑みながら聞いたり観たり。
なのに、最近はなぜかアナタを意識してしまう。
でもやっぱりダメだ、この気持ちは伝えてはいけない。
僕の気持ちに彼女は全く気づいてないだろうし、知らない方がいい。
もし、気づいてるんであれば、、、
アナタからの気持ちを知りたい、、、
何かの間違いで僕の気持ちがアナタに届いてほしい。
僕の口からは絶対に言えない、アナタへの思いを。
『〇〇○さんが、お前の事を気に食わないって言ってたぞ』
ちょっと楽しそうな顔でずいぶんな事を言うじゃないですか。
それを僕に伝えたところで貴方は何をどうしたいんですか?
注意やアドバイスとして言ってるわけじゃないのは分かりきってます。
ただ、暇つぶしぐらいの気持ちなんでしょうけど、こちらが余計なお世話ですよなんて言ったもんなら親切心で言ってるのに、アイツは生意気だ!とか何とか、他の人に言いふらしに行くんでしょう。
貴方は何がしたいんですか??
どんな立場からのご指摘ですか??
貴方は一体、誰ですか??
なぜ、そんな事でしか楽しみを見出せないのか、そんな事でしか人と話が盛り上がれないのか。
ただ、そんな話を聞かされた僕は一日中、頭の中がグルグルと嫌な考えはがりで溢れてしまう。
仲良しこよしでいたいなんて思わない。
刺激し合って切磋琢磨したいとも思わない。
毎日が早く終わってほしいと思うし、毎朝が来るのが怖いよ。
自分を守る為に誰にも話しかけに行かず、誰の顔も見ないようにしていると、段々と皆の顔と声が思い出せなくなってくる。
どっかの誰かさん、こんな僕を見ていて楽しいですか?
これは遠い遠い、西の果てにある国の昔話
その国には10年に1度、国王が選んだ国民の中で最も善良であった者に与えられる手紙がある。
その手紙を受け取った者は、一生遊んで暮らせるほどの大金と歴代の善良国民の名が刻まれた石碑に名を刻み、永遠に名前を語り継がれることになる。
皆がその手紙を受け取りたいが為に善良な行いをするので、その国はとても治安が良く、争いもなく、皆が助け合う国になっていた。
1人の男が国王の手紙を届けにとあるアパートへ尋ねてきた。
『この建物に、ジョセフという男が住んでいるであろう。 その者を呼んでいただきたい。』
男はアパートの管理人である白髪の老婆に事情を説明し、ジョセフという男性の所在を聞いた。
『ジョセフさんねぇ、、確かに居りますよ』と老婆の返事に対して食い気味に男が
『なら、早く呼んで頂きたい』と腕を組みながら片足でパタパタと地面を叩きながら言う。
『どのジョセフさんですか?』
老婆が口を手で隠し困ったように言う。
『へ??』
男が思わずマヌケな声を出す。
『ここのアパートには、ジョセフさんという名前の方が13人居まして、、、まぁ、割と良くある名前ですし、、』
と、諦めた様子の老婆に
『待て待て! このアパートは何部屋あるんだ??』
男が慌てた様子で目の前に建つアパートに指を差しながら言う。
『13部屋ですよ』
『ジョセフしか住んでないのかここは!!』
大声で男が叫ぶ。
『たまたまですからねぇ、、こればっかりは、、、まぁ、私も同じ名前のジョセフさんから申し込みが5人ぐらい続いたあたりでちょっとジョセフさんだけを集めたところもありますけど、、』
自分には罪は無いと言い切れないからなのか、下を俯きながら話す老婆。
『最後ちょっと楽しくなってるじゃないか』
と、怪訝そうに言う男に老婆は、あっ!と手を叩きながら
『手紙にアパートの名前が書いてあったんですよね? 部屋番号は書いてないんですか?』と聞く。
『確かに部屋番号は書いてあるが、、』
『何号室ですか?? それを言って頂ければすぐにわかりますのに』
『 ・・・』
男が黙ってしまった。
『どうしたんですか?』
不思議そうに老婆が聞く。
『字が汚くて読めないんだ・・・特に数字が』
バツが悪そうに男が呟く。
そして、それを聞いた老婆が震えながら言う。
『その手紙を書いた人って..』
『あぁ、国王だ、だから確認もできないんだ!だから困っているんだ!! 俺にどうしろと!国王に字が汚くて読めないんで教えてくださいなんて聞けというのか!!』
男がついに激昂してしまった。
果たしてこの手紙の行方は13人のどのジョセフの元へ!!