moooosha

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3/6/2024, 9:36:03 AM

3月6日のお題【たまには】に加えて
友人たちから【言葉】を募集して
お題小説とさせていただきました。
最後にまとめて紹介しておきます⭐︎



兄は 初めて見るイルカに 見惚れていた。
分厚いガラスの存在を忘れて
無意識に伸ばした手を 引っ込めた。
子供らしいところを私に
見せたく無かったのかもしれない。
けれどその後もしばらく
ぼーっと見つめているものだから
早く行こうよ、と強く 裾をひいてしまった。

帰り際のお土産コーナーで
その水族館には 展示されてもいない
アザラシのぬいぐるみを
私は欲しがった。
少し膨れて、ぎゅっと抱いて離さなかった。

母はいつもの駄々にうんざりしていたけれど
そんな時も兄は
自分は何もいらないから
かやこにアザラシを買ってあげて欲しい
と頼んでくれた。

蝋燭に火が灯り
線香の香りが脳に届いた時
実感した。

もう兄はここには いない。

泣き崩れる母を
支えることもなく
ただ揺れる蝋燭の火を見ていた。
輪郭も不鮮明な火に
心を縛り付けられていた。

行かないで。
あの時の兄のように手を伸ばしていた。
もしそれで兄が戻ってきてくれるのなら。

おやつは必ず大きい方をくれた。
母のお気に入りのお皿を割ってしまった時
自分がぶつかったせい、と嘘をついてくれた。
皿の破片で指を切っても
痛くないと、また嘘をついてくれた。
夏休みの宿題の自由研究は
いつも兄との合作だった。
あがり症の私が心配だと
就活の面談練習も 毎晩付き合ってくれた。
幼いうちに父を亡くしたのは
兄も同じだったのに
父親以上の存在になろうとしていたのか
小さな悩み事にも「一緒に考えよう」と
いつも寄り添ってくれた。

私は知っていた。
兄があの日の水族館で
イルカのぬいぐるみを見ていたこと。
愛しそうに少しだけ、撫でていたこと。

わたしのためだけでなく
誰かのために 生きられる人だったのだ。
運動神経も良く、人に頼られる兄が
消防士になったことは
わたしにとっても誇りだった。

兄を奪った同じ火で
兄を送らねばならない。
献灯は 故人を無事に家へ導く 願いの光。
その道標が 今も憎くて仕方がない。

暗い田舎を離れ、早5年。
実家から持ち出したおもちゃ箱を開ける。

兄と集めていたBB弾
縁日の射的で取ってもらった
グリコの空箱と おまけの指輪。
銀のエンゼルはまだ あと1枚足りていない。
そして、アザラシのぬいぐるみ。
シロの脇の下には手術の跡がある。
ブンブンと振り回してしまったせいで
一度はらわたが飛び出してしまった。

今日は兄の命日。
蝋燭に火を灯し線香に移す。
白檀の独特の香りが
また、脳にまで届く。

「たまには、帰ってらっしゃい……」
電話口の母の声は
どんどんと小さくなっていった。
ただ私の耳が受け付けなかった
だけかもしれないが。
母まだあの日に
炎に 囚われている。

薄れゆく記憶の中に生きる
兄はいつも笑っている。

自分のためだけにしょげるな
人と歩むために前を向けと言っていた。

母はまだ悲しみの中。
私はその残像を振り払うように
手を伸ばし
蝋燭の火を消した。
煙が溶けてゆく。
結露した窓と重い雲。

淡雪は舞う、溶けるために。
気付かぬうちに春は来ていた。




お題の【言葉】
・死
・献灯
・イルカ
・おもちゃ箱
・淡雪

淡雪は
春先に降る消えやすい雪という意味だそうです。

3/4/2024, 3:24:00 AM

奇祭【ひなまつり】

そう冠するだけで
何が起こるかわからない

言葉の妙。

2/21/2024, 7:49:08 AM

【同情】


同じクラスのなほこちゃんは
みんなのお姉ちゃんみたいな
とってもすてきな女の子。
ついつい困ったことがあると
なほこちゃんの方を見てしまうし
なほこちゃんもこちらを
見てくれている気がする。

なほこちゃんみたいに
自分から元気に
あいさつできる子になりたいな。

かけっこでも
算数のテストでも
お絵描きでも
表彰されるなほこちゃんみたいに
なりたいな。

なほこちゃんがいないと
クラスがしんとしずかなのは
みんな同じ気持ちなんだろうな
太陽のでていない朝みたいな
少し寒くてとっても寂しい
気持ちなんだろうな。

みんなが憧れてるゆうくんに
バレンタインチョコをもらった
っていうのもゆうくんが言ってた。
オレが1番に
チョコを渡したんだって
自慢してた。
とってもいいな。

中学校一年生で生徒会に入って
三年生では生徒会長になった
いいな、いいな。

高校も推薦で決まったのに
公立に行く私ともお勉強してくれる
すごいな、いいな。

大学で留学した時に
絵手紙を送ってくれた。
小さい頃と変わらず
ニコニコのなほこちゃんを真ん中に
青い目のすてきな男の子や
赤毛の女の子と肩を組んで写ってた。
いいな。いいな。

頑張ってじゃなくて応援してるよ!
っていつも言ってくれるなほこちゃん
すごく素敵で、すごくいいな。


焦がれるばかりの
そんな自分をあわれんで
かわいそうにおもって

なほこちゃんを恨んでる。

2/20/2024, 9:14:38 AM



枯葉(かれは、こよう)



もっとそっちに行けないのかよ
むりだよ、お前の横もっと詰めれるだろ
なんでだよ、俺は一番最初からここにいたんだよ
うるさいなあ、静かにしていられないのか君たちは

醜い言い合いにマムは大きくため息をついた。大地を揺るがすような強い風が意志を持って彼らを諌めている。

ごめん、マム
いい子にするから、怒らないで。
そろそろ独り立ちの頃合いだ、最後くらい仲良くしよう。
そうだ、そうしよう。

やがて一人ずつ、マムのもとを去る。
そのときはマムも彼らの旅立ちを祝い、柔らかく大きく手を振る。

まもなくこよう、その時までは子らの喧騒に耳を澄ませて、マムはどっしりとそこに息づく。

2/18/2024, 12:14:26 AM

血液型への(明るい)偏見を含みます。
ご不快になりうる方はお避けください。
では、いってみよう✊✨


———ハタチの時、つるんでいた仲間にイヤイヤ連れて行かれた献血で看護師さんに「B型ですね」そう言われて血液型を知った。私はそれに「いやです、OかAがいいです」と言った。

その日から世界が変わった。

残念なことに世の中のイメージとして、B型は自己中心的でわがまま、気分屋で敵が多いタイプだと聞いていた。だからこそ【嫌われてはいけない四女】として育った私は終わったと思った。すでに、血が嫌われているではないか。

しかし世界はそんな私に新しい風景を見せてくれた。いつもみていた池袋の汚いビル群が、やけに高く高く自信ありげに見える。比べて人は小さく見える。箱庭的な感覚、私たちは神様が配置したジオラマ世界で生きている。ふと、そう思った。ああ、そうか人はこんなにも小さい存在なのだと自覚した。

つるんでいた仲間は私のことを「思っているより小さい」と言っていた。声も態度もでかいのに実際はチビ、ストレートにそういう意味だった。仲間がそういうのも無理はない、183センチから173センチに囲まれた156センチはそらチビだ。それに対して毎度「うるせっ!」と、やんや言うというのが定番のノリだった。そんな日々の中で実は少しだけ、仲間はずれにされているような、ささくれだった気持ちにもなっていた。みんなが見てる世界とは違うのかな、と。

だからこそ「ビルと比べたらお前らもチビだ!」と言えるようなったことは私にとって奇跡だった。嫌われてもいい、口にしてみよう。そんな一歩目だった。
最初はいつもと違うノリで仲間も多少面食らってはいたようだが「いいねぇ〜どしたB型ァ」と今度はB型をいじってくるようになった。

B型は自分の世界が好き。
B型は自分の世界を持っていること、に自信がある。
B型は自分の世界を好きな人にオススメするのが好き。

否定されて嫌われて孤独であっても、人は1人で死んでいく。だから別に良いではないか。評価されるまで待つだけなら、評価を待たずにその先へ行ってやる。

血による分類に否定的な意見も勿論あるだろうが、嫌われないようにビクビクしながら生きてた自分より、B型と診断された自分を、私は気に入っている。



【あとがき】
冒頭の看護師さんとのやりとりの時点で、私の中のB型が漏れ出ていたことは内緒🤫

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