懐炉 @_attakairo

Open App
1/19/2026, 8:53:29 AM

「どうして読ませてくれないの?」
「これは僕のなんだ」
「そうだけど、私にも関係のあることでしょ? いつでも見ていいって言ったじゃない」
 せまい室内での攻防、必死に伸ばされる手を避けて本はパラパラと捲られる。
 一枚目。白紙。
 二枚目、三枚目。白紙。

 白紙。

 白紙。白紙。どこも真新しい頁。
「何も書いてないじゃない」
「…………」
 少年は確かに言ったのだ。各関係者へ、机のうえに置いてある本はいつでも開いて見ていいと。他人に読まれてはじめて、完成するものだからと。
「もう書き終えたんだ」
「どういうこと?」
「だから……」
 本は完成した。わざわざ書き残す必要はなくなった。他人に読まれる必要もなくなった。
 伝わらない前提で、少年はかろうじてそのような説明をした。
「……なるほどね?」
 少女が辺りを見回し、床に転がった筆記具を手に取る。ノートは閉じた状態で机のうえに戻された。軽い筆跡が表紙を滑る。
『日記』と。
「……日記」
「そう。日々の記録を、自分のために書いて残すって意味」
 ペン先に蓋。
「今から、この本は誰にも見せなくてよくなったの。日記にはとても個人的なことが書かれるでしょう? その人の感情や秘密、心のなかを無理に暴こうなんて誰も思わないわ」
 戸惑っている少年へ日記帳が渡される。完全に私物となった本を見下ろして、彼は知らぬ間に息をついた。
 その様子を少女は見ていた。
「でもね、ひとりで書いていて寂しくなったら、いつでも呼んでいいからね」
 少年が深く頷いた。

【閉ざされた日記】

1/17/2026, 10:26:02 AM

口笛ふけば
枝葉のすみから すみまで絶え間なく

林の喧騒 巻き上げて
暖を根こそぎ攫ってく

お願いだから樹皮は剥がしてあげないで

窓のうちから叫ぶ声
そんなところから聞こえないわ
あなたも支度を始めたほうがよろしくて

【木枯らし】

1/17/2026, 7:03:06 AM

太陽の光を浴びて
自然界に溶け込む。
「ずっとここにいればいいのよ」
となりで彼女はひざを抱え、傾けた。
裾に縫いつけられたフリンジが流れるように、
髪束が空を透いてゆく。
「そうしたら悩みごとなんてなくなるでしょう?」
彼女の視線と、
「悩むことは嫌いじゃないんだ」
綿毛が交差し、遥か彼方へ。「生きている感じがするから」

「その生きているっていうのは、存在意義のようなもの?」
彼女が姿勢を崩して「辿り着ける場所なんて無いわ」「ここにいてくれるだけでいいの、それだけで」
フリンジがばらばらと散る。
「充分よ」
潤いの目。唇。地面に縫いつけられた手、降りてくるカーテン。
空が見えないと不安になった。
「もう行くよ」
別れを告げて
幕引きを止める。
「……手を離してくれないかな」

空には薄い雲が掛かっていた。
「あなたのことを語り継ぐわ」
「どんなふうに?」
「病弱な幼なじみを捨てて村を出た、最低で、夢見がちな英雄。彼は紫の美しい瞳をもっていたって」

思わず振り返ると、彼女は陽だまりから手を揺らし微笑んでいる。

【美しい】

1/16/2026, 9:39:51 AM

天然由来の油でギトギト
ほんのり甘いベール被せて
丸めて見せた綺麗な面
どうぞお好きに
白餡 黒餡 ときには辛味
知らない用語を使わないで、難しい意味を解説しないで、
噛み砕いたら歯が欠けちゃった
極彩色のタールと化した
複雑で単調なマーブル模様

【この世界は】

1/14/2026, 12:22:06 PM

何度も何度もアラームかけた
眠くないのに起きあがるのは十分前。
玄関に置いてあったのに忘れた
鞄に入れては別の鞄を手に出掛ける。
人生うまくいかないどころか
日々の営みにつまずいている、
人間讃歌
なんともいじらしい、

ヒトは愛される素質があると。

愛をもとめて進化しながら

愛をみつめて退化してきた。

イヌやネコ、空や海
知らないだれかの愛からうまれ
何億光年と謳われている

問いかけたって返ってくるのは
あなたは愛されているとの詭弁ばかり

【どうして】

Next