「どうして読ませてくれないの?」
「これは僕のなんだ」
「そうだけど、私にも関係のあることでしょ? いつでも見ていいって言ったじゃない」
せまい室内での攻防、必死に伸ばされる手を避けて本はパラパラと捲られる。
一枚目。白紙。
二枚目、三枚目。白紙。
白紙。
白紙。白紙。どこも真新しい頁。
「何も書いてないじゃない」
「…………」
少年は確かに言ったのだ。各関係者へ、机のうえに置いてある本はいつでも開いて見ていいと。他人に読まれてはじめて、完成するものだからと。
「もう書き終えたんだ」
「どういうこと?」
「だから……」
本は完成した。わざわざ書き残す必要はなくなった。他人に読まれる必要もなくなった。
伝わらない前提で、少年はかろうじてそのような説明をした。
「……なるほどね?」
少女が辺りを見回し、床に転がった筆記具を手に取る。ノートは閉じた状態で机のうえに戻された。軽い筆跡が表紙を滑る。
『日記』と。
「……日記」
「そう。日々の記録を、自分のために書いて残すって意味」
ペン先に蓋。
「今から、この本は誰にも見せなくてよくなったの。日記にはとても個人的なことが書かれるでしょう? その人の感情や秘密、心のなかを無理に暴こうなんて誰も思わないわ」
戸惑っている少年へ日記帳が渡される。完全に私物となった本を見下ろして、彼は知らぬ間に息をついた。
その様子を少女は見ていた。
「でもね、ひとりで書いていて寂しくなったら、いつでも呼んでいいからね」
少年が深く頷いた。
【閉ざされた日記】
1/19/2026, 8:53:29 AM