眠れないね 雀たちが挨拶しだして
起きあがれないね 床には
ただひとりの生き物がいて
冷たくなった 脚とこめかみ、酷い頭痛
身を包むものが無いから
抱えこむものも、無いから
冷たくなってただひとり
ころがってる 生きたまま
ただひとつ、冷えたことばが
ころがってる 顔のすぐ横
着込んでも寒風 通り抜けたように
床で縮こまった体 串刺しにされた
まるで解凍の時を待っている
生き物、ことば
冷気に浸され 目を瞑り
一回、
二回 くしゃみした
【寒さが身に染みて】
古い会話履歴は削除した。
見返さない写真は削除した。
今に不必要なら棄ててきた。
約束される度、無責任に同調した。
寝付く度、穏やかな最期を想像した。
微かな期待は気のせいにした。
もとから居なかったんだよ。
それでも世界は変わらず回っていたんだよ。
ああ
でも、
長く生き過ぎた。
この日がくるまでに本当は、
本当はね、
……。
本当は絶望していたかった。
戻れなくなる度、幼さだけ引きずられて人生が進むんだ。
【20歳】
くろわっさんさくさく
ほしをちりばめて
とけたまーがりん
かんぺきなすがた
みあげたよるは
ほそぼそくとげり
かげるさかさくろわっさん
くろっさわんさか
かたちをかえる
こんがりばたー
ちでちをあらう
どこからのぼり
どこへしずんだ
くろくさんかくろわっさん
みかづきだけで
おかおをえがくと
なんだかぶきみねくろわっさん
【三日月】
縦横に広いテーブルがあって。
正方形の紙や、布の切れ端、糸やボタン、花びら、
結晶、砂、星、葉っぱ、
そういったものが多彩に散らばっているとするでしょ。
好きなように織ってみて。
まずは素材を選んで、次に色やかたちを選んで、
だけどもし、テーブルのうえのそれらが境界もなく混ざりあって、川のように流れ出したら?
手触りもかたちも消え去って、最後にあなたは色を探す?
――何だって、選べるほうが深みが増すかも。違いがあったほうが面白いかもしれない。交じり合うことは混ざり合うよりも健全で、理想的で在りたいとも。
そしていま目の前に、にじんだ色々が流れている。
あなたはスポイトを手に取る?
染料にするため?
抽出した一滴がなみだのように無色透明だったとしても?
【色とりどり】
部屋に入ると立派なかまくらが出来ていた。
「どうなさいました」
明るい室内。閉め切られたカーテン。
なんでもないと、くぐもった声。
「お熱がありますか」
……いいや。
「横になられたほうがいいですよ」
もそもそと、分厚い壁がベッドの上で崩れてゆく。
毛布。
クッション。
布団。
まくら。
やがて現れた部屋の主。
積もった雪宿から、ぼんやりした目元のみ。
……外を見てもいい?
どうぞ。
遮断された夜のカーテンをひらけば当然、
聴こえては来ないはずの。
鈴の音。
話し声。
吹き消される湯気。
普段は口にしない甘さと。
笑い声。
包装紙が手渡され。次から次へと、
点灯の色が変わり。
「庭に出たい」
「いけませんよ、こんな熱で」
「箒が要るんだ」
部屋着のまま外に出て、歌いながら、歩道に積もった雪を掃く。通りかかった人々は物珍しそうに眺め、ときには立ち止まる子もいたり。
「……お水を持ってきますね」
音もなく閉じられてゆく部屋のドア、
外の景色に挟まれて、
少年はのぼせた息をつく。
ベッドまわりの雪が溶け出した。
寒気はおさまらない。
ふかく埋もれながらも、少年は箒にまたがって街を見下ろし飛んでいた。
【雪】