かならずロウソクを立ててくれた。それを数えるのが好きだった。
歌い終わるまで、か細く揺れて。途中で消えないか少し不安で。
おめでとう。ありがとう。そして拍手が鳴る間に吹き消すの。
放課後、制服のまま買いに行った。
ポキリと折れそうなのを12本。
「歳、超えちゃったよ。お姉ちゃん」
命を灯火に喩えた人は罪つくりだな。役目を終えたライター片手に膝を抱える。
おめでとうなんて言えないよ。
たぶん今年も、短くなるまで動けないから。
【消えない灯り】
「そんなに見つめていると目を悪くするよ」
車窓から視線を外す。となりの運転手は姿勢こそ正していたが、鳴らすクラクションは長かった。「何が気になるの」
何も、と答えるまえに後部座席から肩を叩かれ。「あれだよな! 今度ライブやるしな!」指がさすのは三枚連なる街頭ビジョン。映し出されるのは派手な衣装の女の子たち。
「なぁどの子がすき? オレはね〜」
「嬢はアイドルとか興味ないだろ」
シートベルトを締めろ。手元のボタンがもう一度押され、大きくハンドルが切られた。
ひかえめな鼻歌が車内に漂っている。
夕方家を出たときの小雨は本降りになり、街中の光が、
流れては滲み、流れては滲み。
ただそれだけなのに追ってしまう。
鼻歌が途切れた。
「なぁ目に良い光ってなんだ?」
点滅。
沈黙。
点灯。青に従い、ゆったりと左へ。
ハイウェイを抜けて橋梁に差しかかる。
各々、答えをさがしている。そんな時間が流れた。
寝転がる衣擦れが後ろから。
「夕日はさ、ダメだよな。なら朝日もダメか?」
理科での授業を思い出す。太陽の光を直視してはいけません。
じゃあ、月の光は?
街の光は? 雨の光は?
「でもみんな、わかってて見に行くんだよな。綺麗だから」
ランドマークのイルミネーションが、
流れては線に、流れては線に。
ただそれだけなのに追ってしまう。
わかっているのに惹かれてしまう。
ハンドルをはじく音が数回。チラリと見れば目が合った。
しばらく見つめられてから、「そうだな」とだけ。運転手は前を向き。
拳を突き上げるような声が後ろから。
「そう、だからオレもライブに行く!」
「チケット外れたんだろ」
拳がパタリと落ちる音。
向こう岸には新しい光が連なっているはずなのに、出口の見えないトンネルのようにいつまでも渡りきれない橋だった。
【きらめく街並み】
今朝も最後のことばを綴る。
蝋を垂らして口封じ。
「先生おはよー」「いってきます!」
「いってらっしゃい」
気をつけて。言ったそばから一人転んだ。ちぎれそうなほど手を引かれて、また走り出す。
――子どもが元気なのは、村がしあわせな証拠。
かつての言の葉が凛と鳴る。
澄んだ音をふかく吸い込み、私もやや駆け足になった。
「ずいぶんと急いできたのね」
「おはようございます、聖女様」
気まずさを払うように、片手で前髪をととのえる。なぜか伝染したようで、互いの視線がすれ違った。
「貴方はいつもそう呼んでくれるけれど、なんだかくすぐったいわ」
「子どもたちは何と?」
「おばあちゃん、が多いかしら」
「彼らに郷土史を説きなおす必要がありそうですね」
「あら」
わたくしは気に入っているのよ、と口元に手を揃えて。笑いかたはずっと変わらない。
「平和っていいわね。ひどく穏やかで。貴方もそう思わない?」
ええ、思います。答えながら手元を探る。
封書はあった。
二度とひらかれないように。
「ありがとう」
恋文をもらう手つきで封蝋をかざし。「いい香り……」
少しして「これも焚べることになるのかしら」と眉が下がった。「そうしてください」と頼み込む。
「きっとわたくし、貴方からの手紙を読むことなく終わるのよ。ほんとう、人生って儚いのだわ」
さめざめと泣き真似、けろりと菓子を摘まみ。「まあ人間誰しも死ぬものよ。そんなに焦らなくったっていいじゃない」
言の葉が、嗚呼と鳴り。
ふかく頭を垂れる。
聖女様には全てお見通しのようだ。
幼な心も、諦念も。
「貴方、昔からちっとも変わらないわ」
蝋の縁がつつかれる。つやりとした爪先は何処かうわの空で。
「墓場まで持っていくのも駄目かしら……」
どうかその手で灰にしてください。穏やかに告げた。
【秘密の手紙】
それはとても静かにやって来る。
目の合った野生動物が後ずさるように。
クラシカルな街路灯が順にともり始めたときのように。
降りしきる細雪がアスファルトに吸い込まれてゆくように。
とても静かに積もるので、誰も予兆に気がつけない。
追いついたとおもったら、それは晩秋だったりする。
つかまえたとおもったら、それは浅春だったりする。
どうにも捉えどころのない。
それが厳寒の麗しさである。
【冬の足音】
呼び出されるように待ち合わせて、映画を観た。
ずっと気になっていた映画。前に話したの、覚えててくれたんだ。
「その話ばっかでうぜぇから」
並んだ席を二枚発券。チケットの作品名を何度も眺める。
君も、じっと目を凝らして。
「『たゆたえ!鮭の漂流記』……なんだよこれ本当に」
上映後のランチで感想会。鮭が鮫におそわれるシーンが素晴らしかった。あと網にかかったところで泣きそうになるし……
力説してると手が止まっちゃう。
君はなんともいえない顔。でも相槌を打ってくれる。
「いいからさっさと食え」
デザートのパフェとケーキは半分こ。
夕暮れが近づいたから手を繋ぐ。
隣を見れば逸らされる。
こんな日がまたあればいいな。ふと思う。
思っていると、繋いだ手とは反対に、何か差し出されていることに気がついた。
高級感のある黒塗りのケース。
「中はカラだから」
よくある映画のよくあるシーン。
そのはずなのに、やっぱりどこか君らしい。
これから行くとこで選ぶからと、押しつけられたそれを開くまえに、君に飛びついた。
【贈り物の中身】