「そんなに見つめていると目を悪くするよ」
車窓から視線を外す。となりの運転手は姿勢こそ正していたが、鳴らすクラクションは長かった。「何が気になるの」
何も、と答えるまえに後部座席から肩を叩かれ。「あれだよな! 今度ライブやるしな!」指がさすのは三枚連なる街頭ビジョン。映し出されるのは派手な衣装の女の子たち。
「なぁどの子がすき? オレはね〜」
「嬢はアイドルとか興味ないだろ」
シートベルトを締めろ。手元のボタンがもう一度押され、大きくハンドルが切られた。
ひかえめな鼻歌が車内に漂っている。
夕方家を出たときの小雨は本降りになり、街中の光が、
流れては滲み、流れては滲み。
ただそれだけなのに追ってしまう。
鼻歌が途切れた。
「なぁ目に良い光ってなんだ?」
点滅。
沈黙。
点灯。青に従い、ゆったりと左へ。
ハイウェイを抜けて橋梁に差しかかる。
各々、答えをさがしている。そんな時間が流れた。
寝転がる衣擦れが後ろから。
「夕日はさ、ダメだよな。なら朝日もダメか?」
理科での授業を思い出す。太陽の光を直視してはいけません。
じゃあ、月の光は?
街の光は? 雨の光は?
「でもみんな、わかってて見に行くんだよな。綺麗だから」
ランドマークのイルミネーションが、
流れては線に、流れては線に。
ただそれだけなのに追ってしまう。
わかっているのに惹かれてしまう。
ハンドルをはじく音が数回。チラリと見れば目が合った。
しばらく見つめられてから、「そうだな」とだけ。運転手は前を向き。
拳を突き上げるような声が後ろから。
「そう、だからオレもライブに行く!」
「チケット外れたんだろ」
拳がパタリと落ちる音。
向こう岸には新しい光が連なっているはずなのに、出口の見えないトンネルのようにいつまでも渡りきれない橋だった。
【きらめく街並み】
12/6/2025, 9:56:00 AM