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7/8/2024, 7:50:06 AM

七夕



「今年の七夕は晴れかい?」

「そうかもね」

映し出されているテレビに映るお天気アナウンサーが日本列島の画像に指し棒を当て解説する。
今年の七夕は午後もずっと晴れらしい。

「今年は織姫様と彦星様は会えるんだね」

よかったよかったと呟きながら窓の外を眺める曽祖母はとても嬉しそうな顔をしていた。

テレビ番組が天気予報から情報バラエティに変わり、七夕の日に因んだスイーツやデートスポットの紹介が始まった。

「今はこんな素敵な場所があるのね、みーちゃんもお年頃だし、いつか素敵な彼氏さんと行くのかしらね」

私はそっと目を逸らした。

「私たちも一度は行ってみたかったですね」

曽祖母が仏壇に飾られた遺影に言った。
遺影には軍服を着た厳つい顔をした男性が写っている。

「ひいおじいちゃんってデートスポット行くような人なの?」

「私がお願いしたらどこへでも行ってくれる人よ」

その言った曽祖母は恋する乙女のようだった。

7/6/2024, 7:35:23 AM

星空



恥の多いとまでは言わないが、じゃあ人に褒められるような人生を歩んで来たかと聞かれたらそんな事はなく、ほとんど家出のような状態で私は生まれ育った故郷を飛び出した。

あれからもう何年経ったのだろう。
どうやって住所を調べたのか、私が暮らすアパートの郵便受けに母からの手紙が入っていた。

手紙には祖母が亡くなった事、葬儀などはもう終わらせた事、弟が結婚して孫が生まれたのを機に実家を二世帯にしたので私の帰る場所はもう無いとの事が遠回しの嫌味と共に書かれていた。

「そっか、おばあちゃん、死んじゃったんだ」

優秀で可愛い弟よりも、問題ばかり起こす可愛くない私を優先して可愛がる祖母は母に嫌われていた。
祖母はちゃんと供養してもらえただろうか。

その日の夜はいつもより眠れなかった。

缶ビールを片手にベランダに出た。
見上げた夜空に星は何処にも見当たらなかった。

「人はね、死んだら星になって子孫たちを見守るのよ」

昔、祖母が星空を指差してそう言っていたのを思い出した。

幼い頃は見えていた満天の星が見えなくなったのは、都会で暮らしているからか、歳をとって視力が落ちたからか、それとも、ろくでなしの私にご先祖様たちが愛想を尽かしてしまったからか。

緩くなったビールを一気に飲み干して部屋の中へ戻る。
真上に一つの星が輝いていたのに私は気づかなかった。

7/5/2024, 9:45:05 AM

神様だけが知っている



七つまでは神のうち。
数え年七歳までの子供は人の子ではなく神の子である。

神様は子供に言った。

子供が生きるか死ぬかは親の匙加減一つで決まります。
愛しい子よ、貴方たちがご両親に愛され、健やかに生きられるように魔法の言葉を授けましょう。
喋れるようになったらこの言葉をご両親に言うのですよ。

「あのね、まま、ぼくはね、おそらのうえで、かみさまといっしょにぱぱとままをえらんでうまれてきたんだよ」

辿々しく話す幼い子供の視線の先には、こちらに向かって微笑む神様がいた。

7/3/2024, 6:56:04 PM

この道の先に



様々な人で賑わう歓楽街を早足で駆け、周囲を見渡し、素早く路地裏へと入る。
そのまま早足で突き進むと、さっきまでの賑やかさが嘘のように静かになり、私の足音が辺りに響き渡った。

しばらく歩き、一軒の小さなお店の前で立ち止まった。
私の頭の中で大勢の過去の私が訴えかけてくる。

もうやめて。
今ならまだ引き返せる。
これ以上罪を重ねないで。

彼女たちの悲痛な訴えを私は鼻で笑い、店へと入る。

「いらっしゃい、いつもの?」

店主さんの問いに私は頷いた。

いつもの席に座り、持参した本を読んで時間を潰す。
彼女たちの悲痛な訴えはいつの間にか消えていた。

一歩でも踏み出してしまったら、もう後戻りはできない。
辿り着く先に絶望と後悔しかないと分かっていても、私は歩みを止めない、いや、止められないのだ。

だって、私はもう取り憑かれてしまっているのだから。
この、甘く蕩ける欲の塊に。

「はい、スーパーウルトラデラックスパフェ」

「待ってましたぁ〜!」

テーブルに置かれた巨大なパフェに目を輝かせ、私は大きなスプーンを手に歓声を上げた。

他にお客さんが居ないのをいい事にコーヒー片手に正面の席に座った店主さんが、恥じらう事なく大きく口を開け、満面の笑みでパフェを食べる私を眺めながら呆れた声で言った。

「毎週来てくれるのは嬉しいけどさ、そんな高カロリーなもの頻繁に食べて大丈夫なの? 後、危ないから歓楽街と路地裏を近道にしないでって何度も言ってるでしょ」

「大丈夫だってぇ〜、店主さんは心配性だなぁ〜」

7/2/2024, 9:08:35 PM

日差し



暖かな春の日差しの中を、ボロ布を纏った白銀の乙女が優雅に歩く。

日の光に晒された乙女の真珠の如く光輝く白い肌は見るも無惨に焼き爛れ、白銀の如く煌めく白く長い髪は煙を上げなら燃えていった。

乙女の最後を見に集まった民衆たちは、乙女の悲惨な姿を嘲笑いながら野次を飛ばす。

乙女はただ空を見上げて笑っていた。

やがて乙女の体が燃え尽き、灰となって崩れ落ちた。
乙女の死に沸き立つ民衆たちに混じり、乙女の名を呼びながら泣き崩れる一人の男の姿があった。

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