時間よ止まれ
冬の朝、温かい布団に包まり夢と現実の狭間を彷徨う。
このまま永遠に微睡み続ける事ができるのなら私はどんなに幸せでしょうか。
愛を注いで
あるところに一人の女がいました。
女は祈りました。
「可愛い女の子が欲しい」
女は毎日毎日祈り続けました。
ある日、祈る女の前に女神が現れ、一つの球根を女に授けました。
「この球根を大切に育てれば願いが叶うでしょう」
女は球根を植木鉢に植えて大切に育てました。
「あなたのためよ」
毎日たっぷりの水と肥料を与えながら女は言いました。
「全部あなたのためにやってあげているのよ」
悪い虫が付かないように植木鉢を窓から遠ざけて女は言いました。
「あなたは私の可愛い子、ずっとお母さんが守ってあげる、だからずっと可愛い良い子でいてね」
女は毎日植木鉢に囁き続けました。
そうして長い月日が経ちました。
しかしいくら待っても植木鉢から芽は出ません。
とうとう女は我慢ができず土を掘り起こしました。
土の中から出てきたのは腐ってドロドロに溶けた球根でした。
意味がないこと
週に一度、お仏壇の掃除をする。
灰を捨てて、毛払いでホコリを落として、柔らかい布で拭いて、掃除が終わったら蝋燭に火をつけて、お線香に火を灯して、おりんを鳴らして手を合わせる。
数秒拝んだ後はお仏壇を見上げていつもの挨拶をする。
「ど〜もこんにちは〜、今日も程よく元気に生きてま〜す」
手は合わせたまま、語尾を伸ばした間の抜けた喋り方で仏壇に話しかけ続ける。
「今週は〜、料理中に指切ったり手を火傷したりと台所を中心に怪我が多かったんだよね〜、でも料理は見た目も味も大成功〜! 美味しく出来過ぎて毎日ご飯お代わりしちゃってさ〜、来週は体重計乗るのやだな〜」
最初は幼い頃に見たお仏壇に手を合わせながら何かを呟いていた祖母の姿を真似て軽く挨拶する程度だったが、いつしか軽い挨拶がちょっとした愚痴へ、ちょっとした愚痴がそこそこの近況報告へと進化を遂げ、今では小さな蝋燭が燃え尽きる数分間だけの仏様限定雑談ライブ配信というノリでひたすらお仏壇に向かって喋り倒していた。
毎週こんな事をして何の意味があるのかと聞かれたら、ぶっちゃけ神も仏も信じていないので全く無いとしか言えない。
「でさ〜……ってもう蝋燭燃え尽きそうじゃん。
それじゃあ今回はもう終わりま〜す。 また来週〜」
でもまあ、あれですよ、楽しければいいじゃん的な?
胸の鼓動
心臓が一際大きく脈打ち、心臓から全身へ熱い血液が巡り、じんわりと体を温める。
放心状態の脳がこの大きく、そして早く鳴り続ける鼓動が耳元からではなく自分の胸から聞こえている音だと時間を掛けて理解していき、やがて脳と胸の鼓動が正常に戻り全てを理解した俺は、画面に大音量で悲鳴を上げる顔面蒼白の化け物の顔が映し出されたスマホを持ち主である友人の顔面に向かって思いっきり投げつけた。
1件のLINE
一日に一回、決まった時間に息子からLINEが来る。
要件は、ハートをプレゼントしました。
これが数年前に夫と大喧嘩して実家を出て行った息子からLINEゲームを通して届く唯一の生存報告だ。