教えてって、言えたらいいのに。
食べ物とか飲み物とか動物とか…君の好きなもの、何でも。
色々知っているような、知らないような気がするから。
俺の知ってる君は、いつだって予測の範疇で。
少し離れたところで、時々隣で、
ちょっと見えただけの好みのかけら。
自販機で買ってるのは、あまい炭酸が多くて。
コンビニだと、ツナマヨのおにぎりをよく選ぶ。
猫が好きだけど猫アレルギーなんだと、しょんぼりして。
やっぱり、知っているようで知らないと思う。
だから俺に教えて。
『まだ知らない君』 白米おこめ
日陰ぼっこをしよう。
太陽の光は、僕達には眩しすぎるから。
灰になってしまうだなんて冗談を言い合いながら、
太陽から隠れるように小さな樹の下に集まろう。
木陰で寄り添って、内緒話をしよう。
眩しさに目を細めると、
君の表情がわからなくなってしまうから。
ペットボトルの水で喉を潤しながら、
こっそり持って来たタオルで汗を拭こう。
束の間の休息。二人だけの時間。
一本しかない木の幹に、もたれるフリをして寄り添おう。
小さな葉の影にすっぽり埋もれるように体育座りをして。
グラウンドで揺らぐ陽炎を、今だけは遠いものとして。
そっと、日陰で並んで眺めていよう。
「日陰」 白米おこめ
カサって音。
持ってるだけで崩してしまいそうな音。
君の綺麗な箸遣いが見たい。
焼けた私の匂いを、
変な香りだと思いながら
その手でそっと掴んで
崩してしまえ。
「そっと」 白米おこめ
星のかけらを食べてみたい。
眠れない夜に、紅茶を飲みながらこっそりと食べたい。
口の中がちくっとして、痛くて。
それでも根気よく舌の上でころころと転がして、
ほんのりと溶け出す星の蜜を味わいたい。
息をするために少し口を開けば、
唇の隙間から淡い光が漏れて、慌てて手で押さえるような。
いつか、星のかけらを取りに出かけられるなら、
小さなビンにその光を閉じ込めて、綺麗なまま保存したい。
空気を抜いて真空にして、真っ暗なところに置いて。
マイナス270℃の世界で輝くその光が消え去る前に、
37度の熱でじんわりと溶かしたい。
「星のかけら」 白米おこめ
公衆電話の受話器が、するりと手から抜け落ちた。
くるくると巻かれたコードが伸びて、
壁にカツンとぶつかっては上へ横へと飛び跳ねる。
その動く緑を見つめながら、俺は後退りをする。
受話器を拾えない。拾いたくない。もし、拾ったら。
背中が固く冷たい壁に当たる。
狭い狭い、公衆電話のボックス。
手で押せば外へ出られるのに、俺はひっくり返った受話器のその粒々とした穴から目が離せず、ただただ壁に背中を押し付ける。
自分が押す前に、ボタンがひとりでに凹んだ。
かち、かち、と確かめるように押されていった。
先に入れておいた10円が落ちる音がして、無機質なオレンジの画面に⑩が表示される。ああ、ああ、何処につながったというのだ?
誰かが呼んでいる。呼び鈴がなっている。
電話の向こうから。遠くで鳴る掠れた音質。
いや、違う。もっと近くから、まるでそう、
自分の携帯から鳴っている、ような。
はは、と笑ってスマホを耳に当てれば、そう、
自分とそっくりの声が、俺に誰だと聞いてきたんだ。
「Ring Ring…」 白米おこめ