マハーシュリーの夏巳

Open App
11/1/2023, 8:48:14 AM

【お題:理想郷】

ゴダイゴ「ガンダーラ」は
易しくてシンプルな
言葉を使いながら

理想郷というものが
余すところなく
表現されていて

曲の素晴らしさも
さることながら
歌詞が印象的で
空でも
口ずさむことができる

誰もが憧れ
行きたがる地

でも どうすれば
そこへ行けるのか
誰一人として知らない

どうか行き方を
教えておくれ

という 内容だが

そのユートピアを
皆が夢見るほど
いま 過酷な環境に
生きている

そんな理想郷に
憧れずにはいられない、
そんな人々の様子が

曲調も相まって
心に迫り
印象深く 忘れがたい
歌だと思う


作者不詳 「今昔物語集」

ある修行僧が
山の中で迷い

隠れ里、
まさに理想郷に
足を踏み入れる

そこには
酒の泉が湧き出、
人々にはご馳走を
振る舞われ

修行僧は
よい心持ちで過ごす

しかし
隠れ里の存在が
他に漏れ
荒らされることを
恐れている里の人々は

最初から
修行僧を殺すつもりで
接待していたのだ

それを知った修行僧は
なんとか
里の人を説き伏せ
他言しないことを条件に
なんとか無事に
帰してもらう

山を降りることが
できた修行僧だが

こともあろうに
約束を守らず
理想郷での
出来事を話してしまう

そして
長老が止めるのも聞かず
若者たちは

修行僧を案内役に
夢のような隠れ里をめざし
山に向かう

長く生きて
様々な体験をし
人々の言葉を聞いてきた、
長老がつぶやく

そんな理想郷など
あるはずがない

もし、あるとすれば
そこは もうこの世ではない

漫画「動物のお医者さん」
では  おばあさんと
ハムテルが

おせち料理を作りながら
ゆっくり正月を
過ごしたければ
その分 年末に しっかり働け
と話していたが

このシーンには
なんだか妙に
納得した記憶がある

何もしないで
旨味だけ
得られるなどという
都合のいいことは
やはり ないのだ

長老の言うように
もし、あるとすれば

それはもう、
この世ではないか
もしくは 残念ながら
詐欺の誘い水だろう

理想郷、ユートピア
とは
どこにもない場所
という意味だそうだ

理想郷  うまい話には
ご用心、ご用心

10/30/2023, 7:44:48 AM

【お題:もう一つの物語】

学生の頃、
ザ・昭和の遺産
といった風情の
学生寮に入っていた

とにかく古くて
設備も旧式で

あるときには
浴槽タイルの剥がれが
ひどくて
とうとう工事が入る程だった

それでも
なんとか その寮で
学生生活を送れたのは

寮生たちが
とにかく面白くて、
どうしようもないほど
お互いにバカで
気が合ったからだった

私も含めて
そこは 第一志望の
学校ではなかった、
という人が多かったのだが

来てしまったからには
楽しまなきゃ損だと思って
皆  腹のそこから
学校生活、寮生活を
楽しんだ

門限がある寮だったが
真夜中に非常階段を
お笑いコントのように
数珠つなぎに降りて
ラーメンを食べに出掛けたり

タバコの吸いかたを
ベランダで
教えてもらったりしたのも
その学生寮だ

また  今のように
ネットで本や漫画や
音楽を楽しめる時代
ではなかったので

回し読みをして
天人唐草で山岸凉子を知り
トーマの心臓で萩尾望都
を知った

トラウマやイド、エス
といった
私が全く知らなかった言葉も

真夜中、
その昭和遺産の部屋で
オレンジ色の
古びたライトの下で
教えてもらった

行く予定を
していなかった学校、
想像もしていなかった生活

受験勉強を
していた時に
夢見て 思い描いていた生活が
当時の私にとって
一つの物語とするなら

実際に体験し
過ごした生活は
もう一つの物語
といえるかもしれない

例年、事情を抱えて
入学してくる生徒が
少なくないことを
知っていた恩師が

私が卒業をするときにも
声をかけてくださった

ここで過ごした生活は
誰にも奪うことのできない
あなただけのものだよ

そのときは
くすぐったい気持ちで
少し感傷的な言葉のように
聞いていたが

いまになると
本当にそのとおりだと思う

ある講義で 先生は

人は二回死ぬ

肉体の死
そして
その人を知る人が
この世に 誰も
いなくなるときだ

と話された

その先生も鬼籍に入られ

寮で一緒に過ごし
共に先生に
かわいがっていただいた
友人の一人も
早くにいってしまった

けれども
先生も友人も
この世に
自分の本を残しているので

誰かに 彼らの本が
読まれることで

二人の言葉は
読者の心に彩りを添え

読者の物語は
また一枚、一枚と
編まれているのではないか
と想像している

10/29/2023, 4:23:33 AM

【お題:暗がりの中で】

ある人が

読み終えた話が
面白かったので

詳細を調べたら
児童文学の分類で
非常に驚いた

と話していた

主人公の家族が
心の問題を
抱えていたり

社会で
疎外されたり
という設定なのだそうだ

なるほど、
と聞いていたが

考えてみれば
子供が読む話には

案外 昔から
人間の社会を容赦なく
描いているものが
多いかもしれない

小川未明
「赤い蝋燭と人魚」

話の冒頭

人魚が住む、
海の様子が
目の前に浮かんでくる

人魚が住むのは
あたたかい南の海
ばかりではない

北の海、
冷たく青黒く
暗い海にも 住んでいる

ある 身重の人魚は
この暗がりの世界を
寂しく思い

地上という明るい世界、
人間の手に

生まれてくる我が子を
託すことにする

この物語の
面白さのひとつは

人間の弱さが
非情なまでに

明確に、
描かれているところ
だと思う

人の心を
持っていたはずが
あっという間に豹変し
鬼になる

人は欲を刺激され
また
恐怖感を煽られて

簡単に
自分の中の鬼を
目覚めさせてしまう

それは
人間が持つ一面であり

隠す必要もなく
いたずらに
恥じる必要もないだろう

むしろ 子供の頃から
そういった、
私たちの中に眠る
人の弱さを

物語で見せ
触れさせるのは
ゆくゆく 
子供たちの助けに
なるのではないか

この世界が天界で
私たちも天人ならば
そんな必要もないだろうが

私たちは
地上に住む人間なのだ

人魚の母親は
自分の姿は
魚よりも人間に近く

きっと
よい繋がりを
持てるだろうと

人間の清浄さを
信じて疑わずに
我が子を
人間界に託したのだが

最後、
人魚の母親が
赤く塗られた蝋燭を
じっと見つめる様子は

息が詰まるほど
哀しく、また
おそろしいのだ

10/23/2023, 2:04:51 AM

【お題:衣替え】

どういうわけか、
衣替えと聞くと

その音の響きからか
自分では たしかに
洋服を入れ替えるのに

頭のなかでは
洋服ではなく
着物を 季節に合わせ
替えている

そんなイメージが浮かぶ

そしてまた
国語の時間に習った
着物にまつわる
恋の歌らしきものが
思い出される

遠い昔の人が
詠んだものなのに

昔の恋人を思う、
その人の心が
息づくような
リアルさをもって
たちのぼってくる

その歌には
視覚、嗅覚

そして今思えば
袖が出てくるので
触覚もあるし

着物にも触れられる、
そういう間柄ですよ
ということも
含んでいるのだろうが

そこを汲めない
年齢だった当時の私にも

十分にその雰囲気が
伝わってくるような
魅力的なストーリーだった

香りは
一瞬にして
昔の記憶、感覚
を呼び覚ます

今の自分は消えて
その当時へ
戻ったかのような

そんな錯覚すら
覚えてしまう


さつき まつ
花橘の香をかげば
昔の人の
袖の香ぞする

歌に詠まれた
そのお相手も
詠み人のことを

季節がかわっても
思い出すことが
あっただろうか

10/20/2023, 3:17:53 PM

【お題:始まりはいつも】

始まりはいつも
興奮と ささやかな責任、
そして勢いがあって
スタートできる

いっぽう
終わりはいつだって
覚悟が必要になる

映画「ギター弾きの恋」

派手好き、女好きの
天才ジャズギタリスト
エメット

今回のお相手は
成り行きで
関係が始まった、
素朴な人柄のハッティ

そして そのうち
エメットは
派手な美女と

あっという間に
結婚してしまう

しかし彼にとって
なんてことはない

そう、いつものこと
始まりはいつも そうなのだ

しかし
彼の計算違いは
ハッティと過ごした期間
そこには
たしかに幸福感があった

そのことに
気づいてしまったことだろう

当初の彼にとって
ハッティとの関係は
いつも通り

終わりだとか
終わらせるとかいった
意識さえ
なかっただろうが

やがて
エメットは ハッティに
また 共に過ごしたいと
持ちかける

人も 長く生きていれば

自分の気持ちとは裏腹に
突然 物事に
終わりがやってくることがある

でも
自分がその終わりを
認めさえしなければ

永遠に
自分の中だけでは
終わりは回避できる

たとえ
実質的には
終わっていても、である

事実としての終わり
という場所までは

自分が何もしなくても
勢いや流れが
連れていってくれるが

自分自身の中の、
終わりに関しては

自分が 何かしらを
手放す必要があり
相当な覚悟がいる

胆力、精神的な強さが
どうしても
必要になってくる

そしてまた
皮肉なのか
ご褒美なのか

自分が腹を決め
終わりを決断したことで

物事は 終わりを告げても
相手の中では
自分が永遠に生き続ける

そんなことが
起こりうるのも
現実にある話だ

自分が本当に
求めるのは何なのか

終わりにするのか
それとも続けるのか

たしかに
ただそれだけの話なのだ

でも なかなか割りきれず
踏ん切りが
つかないからこそ

数多の物語が
そこかしこに
生まれては消え
または漂い続けるのだろう

Next