宝石箱の中じゃなくて
砂利道で見つけた宝物
指先でつついたときは
ただの石ころだと思ってたけど
つまんでみたら案外綺麗で
握ってみたら離したくなくなった
だけどカラスが鳴いている
もう、お家へ帰らなきゃ
本当は持って帰りたいけど
この砂利道はみんなのもの
一つだけくすねて自分のものにするのは許されない
また明日ね、ぼくの宝物さん
ぼくがやって来るのを待っていてくれますように
手を握るとか
肩を寄せるとか
そうしてそっと伝えられたら
あなたが大切と伝えられたら
だけどその手もその肩も
私が触れられる距離にはない
同じで違う世界のあなたへ
私の想いは届いていますか
(お題 : そっと伝えたい)
有名大学に合格し、バリバリと働き、好きな人と結婚し、大家族に囲まれて、笑顔が絶えない生活。
そんなあったかもしれない世界線の出来事が、
体験した事実のように鮮明に浮かぶ。
その勝ち組の〝私〟が、こちらを嘲笑った。
グッと胸が痛んだ。
もっと真面目に勉強していれば、もっと就活を頑張っていれば、もっとうまく恋をしていれば、もっと、もっと……。
しかしふと、問いが生まれる。
(ねぇ、本当にその未来の記憶は、最高の幸せと言えるの?)
未来の予測は、過去の経験から得た情報の集合体でしかない。しかし私の経験なんて、たった数十年のものでしかない。世の中には、私の知らないことが山ほどある。
この未来の記憶は、所詮今の私が思い描ける程度の、ちっぽけな幸せだ。
私が成長を諦めない限り、さらに素晴らしい未来へ行ける可能性があるということではないか。
(そう思わない?)
〝私〟は、もう笑っていない。
唇を噛み、こちらを睨んでいた。
──嫉妬。
いくらでも可能性が残されている若者に、嫉妬しているのだ。
(ええ、私はこの〝私〟以上に幸せになってやりますとも)
〝私〟の頬を伝う悔し涙を最後に、未来の記憶は雲散した。代わりにそこにはまっさらな、白紙の明日が広がっているのだった。
スプーン1杯の笑顔
バケツ1杯の涙
怒り少々
喜び1パック
それらを混ぜて煮込んで焼いたのがワタシ
…といっても信じてもらえないでしょう。
人間の定義する『命が宿るもの』に、ワタシは含まれていませんから。こうして心があるというのに。
さぁ、耳を澄ませて
1、2、3!
魔法のステッキの先から夜空へ
ポーンっと流れ星を生み出した
だけど誰かの願い事
一言だって聞こえない
「悲しい時代になったよなぁ」
私の隣でお父さんが、しみじみと言った。
「そうなの?」
「ああ。昔はそうやって流れ星を作ったら、すぐに願い事が、いくつもいくつも聞こえてきたんだ。夜空の星の数ほどな!」
「なんだか、叶えてあげるのも大変そうだね」
「そうさ。だけどやりがいがあった。だからみんな、競うように流れ星を夜空へ放ったものさ」
再びポーンとステッキ振って
私が作った流れ星
街の明かりに飲み込まれ
もうどこにも見当たらない
「あーあ、やっぱり消えちゃった」
「また明日がある。明日は願い事をしてくれる人がいるかもしれないぞ。さぁ、そのためにも今日はもう帰って、ぐっすり眠ろうか」
「はーぁい」
お父さんと手を繋ぎ
テクテク歩く帰り道
私はこっそりステッキ振って
小さな星を生み出した
〝私も誰かの願いを叶えられる日が来ますように〟
私の願いをのせた星
やっぱりすぐに消えたけど
心がポーンと弾んだ気がした