やってしまった。
「大嫌い!!」と、叫んでしまった。
カッとなって、背を向けて、一直線に家へ帰った。
置いて行かれた私の親友は、何を思っただろう。
ううん、もう親友じゃなくなってしまったのかも。
ブランコの次はシーソーに乗りたかっただけなのに。
先に一緒に砂場遊びでも良かったはずなのに。
意地っ張りになってしまった。
と、母が私の部屋の扉を叩く。
「電話よ」
「誰から?」
親友でいたいあの子の名前が、母の口から飛び出した。
私は受話器を奪い取って、言った。
「ごめんね!」
その声に少し驚いたらしい相手の気配がした後、声が返ってきた。
「謝ろうと思って電話したんだ。こちらこそごめんね」
お題 : 夜が明けた。
食卓を挟んで向かい側にある木製の椅子
一緒に家具屋で選んだお気に入り
だけど、座面は冷え切っていて
もうあなたの温もりは残っていない
もう、この町ともお別れだ。
私は大きな荷物を抱え、バスを待つ。明日からは彼との新生活が始まるのだ。
私はこの町でずっと育った。高校も大学も、ここから通える場所を選んだから、他の土地で暮らしたことはない。
だから、大学で出会った彼と同棲することを、最初は両親に猛反対された。でも、いつでも帰ってこられる距離ということもあり、なんやかんや納得してもらった。
正直、この選択が正しかったのか、少しだけ自信がない。彼と同棲してうまくやっていけるのか、そんなのまだわからないからだ。
気づけばスニーカーの先を眺めていた。
同棲を夢見ていた時はあんなにワクワクしていたのに。いざ現実になると思うと、途端に気が重くなってしまったようだ。
こんな暗い気持ちでいてはダメだ。
私は顔を上げた。
目の前の道路の向こうに広がる草原が、目に映る。
そこには小さなピンク色の花が咲き乱れていた。この町の至る所に咲いている、名の知らぬ花だ。家の脇にも、小さい頃によく遊んだ公園にもある。
その草原を、小学校低学年らしき男の子が、白いTシャツと短パン姿で駆けていた。
懐かしいな。私もああやって走り回ってたんだっけ。
転んで泥まみれになって、お母さんに何度嘆かれたことか。
でも、ここより都会である大学の近くで暮らす彼の家の周りに、この花は咲いていない。
また胸が、寂しさにキュッと締め付けられる。
「どーぞ!」
と、突然声がして、気づけば私の目の前には、一人の男の子が立っていた。さっき草原で見た子だ。太陽のように眩しい笑顔を浮かべて、左手をこちらに突き出している。握られていたのは、あのピンク色の花だった。
私があの草原を眺めていたから、欲しがっていると思ったのだろうか。
しかしその疑問を口にすることはなく、私は荷物を落とさないように気をつけながら、その可愛らしいプレゼントを受け取った。
「ありがとうね」
「うん!」
男の子は満足げに走り去っていた。
それと入れ替わりにタイヤの音がして、待っていたバスがやってきた。
受け取った花の茎のほんのりとした温かさを感じながら、私は車内へと足を踏み入れる。
思いがけない贈り物をくれた男の子に励まされた気がして、自然と心細さは消えていたのだった。
君を見た瞬間の胸の高鳴りは魔法のようで
だけど君の目に映る人が恋人だと知ったとき
0時を告げる鐘が鳴った
(お題 : 魔法)
雨上がりの空の下
葉の裏で雨宿りしていた蝶の私は
そっとそこから顔を出した
淡い空には七色の虹が広がっていて
同じく別の葉の下から顔を出した
蝶の君と目が合った
それが私と君の出会いだった
(お題 : 君と見た虹)