おかえり
長い旅だったね
オギャアと生まれいった君
トコトコ歩き
パタパタ駆けて
テクテク人生を歩んでいった
大罪に手を染めず
大勢を救うこともなく
僅かな人の記憶にだけ残り
静かに世を去ってきた
実に平凡
しかし堅実
だから君の背中には
これがぴったりお似合いさ
純白の翼
天国行きの切符だよ
さぁお行き
その翼で羽ばたいて
開け放った窓の外
おもちゃみたいな街に向けて
ピューっと飛ばす
紙ひこうき
真っ白のひこうきは
風に踊り
揺られ
小さくなって
とおく、とおく、遠くへ
おもちゃの街に飲み込まれた
おもちゃの街の向こうの海
どうやらまだまだ遠いらしい
もっとずっと遠くへ!
そう願いながら僕の手は
次の紙ひこうきを構えていた
ひ〜みつ、ひみつ
机のひきだし
上から2段目、鍵の奥
あいつの手紙
渡さずじまいのラブレター
俺がこっそり持ってって、
あの子の机にいれちゃった!
ぐわぁ、と大きなあくびが飛び出した口からは、太く鋭い牙がのぞく。黄金色に染った地平線に目を細め、前足をぐっと伸ばした。
サバンナの夜明けがやってきている。若いオスライオンの彼は、決心している。今日こそは満たされた腹を抱えて、眠りにつくことを。
彼はタテガミを振り、気合いを入れ直す。タテガミは地平線の光を受けて、チラチラと瞬いた。
夕方から夜明けにかけて活動するライオンとしては、あとわずかな時間しか残されていない。
いつかの夕暮れ時、全ての若いオスライオンがされるのと同じように、彼もまた、群れを追い出された身だった。新たに群れを見つけ、そこのボスになるまで、自力で食いつながなければならない。もう、食料を狩って来てくれる姉や母たちはいないのだ。
彼は再び歩き始める。
今日もまた狩が失敗するなどというマイナスな妄想は、彼の頭にはない。昨日も一昨日も失敗した事実はあるが、それはあくまで過去の話だ。今日は、狩る。
──この彼こそが、のちにサバンナ一の巨大なライオンの群れを率いるボスになる者である。彼がこの後どうやってボスになったのか話してやりたいところだが……あいにく私は、見ての通り、地に根を張った大木なのだ。
先ほど通りかかったライオンの巨大な群れについて私が知っているのは、ここまでだ。続きを知りたくば、サバンナを練り歩き、木々一本一本に話を聞いて回るしかない。
もちろん直接彼に聞けば早いだろうが……彼らは貴方のような生き物を、食料としてしか見ていないからね。
全ての話を手に入れるのには、相当苦労されるだろう。
だが旅人さん、諦めるのにはまだ早い。たしかにサバンナは広大だ。しかし地球上のほんの一部、宇宙のうちの小さな点にすぎない。
すべての話が集まったら、また私のところへ来てはくれないか。そして今度は貴方が語っておくれ。貴方のように彼について尋ねてきた旅人に、今度はもっと満足できる話を提供してやりたいんだ。老木にも、そんな夢があるということだよ。
寂しいの?
大丈夫、キミは1人じゃないよ。ボクがここにいるんだもん。
ボクは誰かって?
さぁ、誰だろう。キミがいつかゲーセンのクレーンゲームで取ったうさぎのキーホルダーかもしれないし、本棚に並べてある本に挟んだ栞のネコかもしれない。
誰だっていいじゃないの。
孤独から抜け出したいって願い、叶ったんだからさ。
ボクは今ね、やっとキミに声が届いて、心がほんわかしてるんだ。キミはどう?