虹果(カクヨム垢有)

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 ぐわぁ、と大きなあくびが飛び出した口からは、太く鋭い牙がのぞく。黄金色に染った地平線に目を細め、前足をぐっと伸ばした。
 サバンナの夜明けがやってきている。若いオスライオンの彼は、決心している。今日こそは満たされた腹を抱えて、眠りにつくことを。
 彼はタテガミを振り、気合いを入れ直す。タテガミは地平線の光を受けて、チラチラと瞬いた。

 夕方から夜明けにかけて活動するライオンとしては、あとわずかな時間しか残されていない。
 いつかの夕暮れ時、全ての若いオスライオンがされるのと同じように、彼もまた、群れを追い出された身だった。新たに群れを見つけ、そこのボスになるまで、自力で食いつながなければならない。もう、食料を狩って来てくれる姉や母たちはいないのだ。

 彼は再び歩き始める。
 今日もまた狩が失敗するなどというマイナスな妄想は、彼の頭にはない。昨日も一昨日も失敗した事実はあるが、それはあくまで過去の話だ。今日は、狩る。


──この彼こそが、のちにサバンナ一の巨大なライオンの群れを率いるボスになる者である。彼がこの後どうやってボスになったのか話してやりたいところだが……あいにく私は、見ての通り、地に根を張った大木なのだ。

 先ほど通りかかったライオンの巨大な群れについて私が知っているのは、ここまでだ。続きを知りたくば、サバンナを練り歩き、木々一本一本に話を聞いて回るしかない。

 もちろん直接彼に聞けば早いだろうが……彼らは貴方のような生き物を、食料としてしか見ていないからね。
 全ての話を手に入れるのには、相当苦労されるだろう。
 だが旅人さん、諦めるのにはまだ早い。たしかにサバンナは広大だ。しかし地球上のほんの一部、宇宙のうちの小さな点にすぎない。
 すべての話が集まったら、また私のところへ来てはくれないか。そして今度は貴方が語っておくれ。貴方のように彼について尋ねてきた旅人に、今度はもっと満足できる話を提供してやりたいんだ。老木にも、そんな夢があるということだよ。

2/6/2025, 10:19:53 PM