有名大学に合格し、バリバリと働き、好きな人と結婚し、大家族に囲まれて、笑顔が絶えない生活。
そんなあったかもしれない世界線の出来事が、
体験した事実のように鮮明に浮かぶ。
その勝ち組の〝私〟が、こちらを嘲笑った。
グッと胸が痛んだ。
もっと真面目に勉強していれば、もっと就活を頑張っていれば、もっとうまく恋をしていれば、もっと、もっと……。
しかしふと、問いが生まれる。
(ねぇ、本当にその未来の記憶は、最高の幸せと言えるの?)
未来の予測は、過去の経験から得た情報の集合体でしかない。しかし私の経験なんて、たった数十年のものでしかない。世の中には、私の知らないことが山ほどある。
この未来の記憶は、所詮今の私が思い描ける程度の、ちっぽけな幸せだ。
私が成長を諦めない限り、さらに素晴らしい未来へ行ける可能性があるということではないか。
(そう思わない?)
〝私〟は、もう笑っていない。
唇を噛み、こちらを睨んでいた。
──嫉妬。
いくらでも可能性が残されている若者に、嫉妬しているのだ。
(ええ、私はこの〝私〟以上に幸せになってやりますとも)
〝私〟の頬を伝う悔し涙を最後に、未来の記憶は雲散した。代わりにそこにはまっさらな、白紙の明日が広がっているのだった。
2/12/2025, 12:44:05 PM