ふと思う。
昨日は過ぎ去るものとして別れを告げられる。
明日は来たるものとして迎え入れられる。
では、今日とは一体なんだろう。
人間は今、この瞬間の連続を体感して生きる。
今は一瞬で過去になり、感じられる今はつい先ほどまで未来だったものだ。そう思うこの瞬間にも、未来は今に、今は過去に移り変わっていく。"今"を捉えることはとても難しい。
けれど、"今日"となれば話は違うのではないか。
今日とは24時間。午前0時から次の午前0時を向かえるまでの間。はっきりとした区切りを持っている。
掴みどころのない"今"と違って、日付が変わるまでは今日。そんなふうに"今日"の中にいる自分をはっきりと認識できる。
ならば"今"というものにも時間としての区切りを持たせたらどうだろうか。今が今であると意識しはじめてから1分間。……それでは少し長すぎるので、1秒ではどうだろう。
だがしかし。果たして、1秒という短い時間の中で、「今から今を認識しよう!」という意識を持てるだろうか。そうしようと思った時には、すでに1秒後の世界に自分はいるのではないか。そうなるとやはり、“今"を捉えているとは言えないのではないか……。
などとごちゃごちゃ、考えていたら頭がこんがらがって。何が何だかさっぱりだ。
僕の思考を覗き見れる人がいたならば、こいつは何を訳のわからないことを考えているのだと失笑していることだろう。
まあ、なんにせよ。今というものがあるのだから今日があり、昨日があり、明日がある。今を繋いで生きる。そうすることしかできないのだ。人間は。
くだらない思考に費やしたこの時間も、時計の針が12時を過ぎれば昨日のものになる。それよりも早く、布団の中で横たわった僕の意識は微睡に落ちていきそうだ。
眠って起きれば、今日は昨日に。明日が今日に。バトンを受け渡すように、"今日"が移り変わっていく。
明日やってくる今日は、昨日になる今日とはどんなふうに変わっていくのだろう。なんとなく、楽しみだ。
どうでもいいことを考えた時間は無意味ではないようだ。明日はいつもより"今日"を丁寧に過ごせそうな気がした。
【昨日へのさよなら、明日との出会い】
透き通り、澄み渡る。
はじめからそうであったかのように
すうっと染み入って、すべてを潤す。
あなたにとってのわたしもそうであるのなら、
こう呼んでも良いですか?
運命の人。
【透明な水】
幼い頃から大好きな絵本の物語。親しんで憧れたお姫様たちの物語。
王子様と出会って、恋をして、すれ違うこともあるけれど、最後はこの言葉で結ばれる。
『いつまでも幸せに暮らしました』
めでたしめでたしのハッピーエンド。
運命に導かれた真実の愛を得て。本の表紙を閉じるとき、お姫様はきまってみんな幸せだ。
私もいつか。願って、そうしてやっと巡り合えた。私の王子様。はじまった、素敵な素敵な恋物語。
私は知った。恋は苦しい。王子様を想う、それだけで胸が締め付けられる。届かない想い。重ならないタイミングのもどかしさ。すれ違うことすら叶わない日は、狂おしさにどうにかなってしまうそうだ。
それでもきっと。この人は私の運命だから。苦しさを乗り越えて、いつかあのお姫様達のように幸せな結末を迎えられる。
信じてた。夢を見ていた。けれど、どうしてだろう。
王子様は、私ではないあの子を迎えにいってしまった。
膨らんだ想いを伝えることすらできないまま。王子様が手を取ったのは、私ではないお姫様。
どうやら私はヒロインじゃなかったみたいだ。
運命を信じて待っていただけの私は、舞台にすら上がれずに。そんなことにも気付かずに、夢を見ていた滑稽なただの町娘。
これはお姫様の恋物語。
私ではない、別の誰かの。
【恋物語】
目を閉じたら広がる暗闇。けれど意識はなかなか落ちてくれない。チクタクと聞こえる時計の音が延々、延々続いている。
目を開く。閉じたカーテンの隙間からうっすら漏れた街灯の光。時折ごおっと聞こえてくるのは国道を走る車の音。こんな時間に一体どこへ走るのだろう。考えてまた目を閉じる。
微睡みかけた意識の中でリフレインする嗤い声。にやけた瞼のその奥の瞳の、ゾッとするような冷たさ。
振り払うように寝返りを打って、身体をぎゅっと縮こめる。あの頃になんて戻れないのに。子宮で揺蕩う胎児のようだ。
眠れない。眠りたいのに、その先に待つ明日が怖い。
きっと大丈夫。明日になれば何事もなく、またいつもの日常。私はいつもの顔で、いつものように溶け込めばいい。
少し失敗してしまったけど。なあに、気にすることはない。私はうまくやれる。大丈夫、取り繕える。
目を瞑る。居ても立っても居られない口腔の渇き。起き上がって蛇口を捻って。再びまた布団にくるまる。
静けさが心を揺さぶる。誰とも分かち合えない痛みと向き合う孤独な戦い。逃げ出したい。もう眠りたい。楽になりたい。
真夜中には居たくない。けれど、明日にも行きたくない。光のないトンネルの中で、ずっと出口を探している。
私は一体、どこへ向かえばいいのだろう。
考えて、やがて、朝日が昇る。
【真夜中】
愛は私にとっての翼だ。
地の底を這うしかなかった芋虫のような私が、艶やかな翅を得てどこまでも翔んでいける。
貴方の笑顔を見守るために。
貴方の涙を掬うために。
貴方の怒りを晴らすために。
憂いを、嘆きを、悲しみを。喜びを、悦びを、歓びを。
貴方の全てを抱き止めるために。私はどこまでも羽ばたいていく。
ああ、貴方が大好き。
貴方に出会ってから、私の世界の全てが変わった。
貴方は私の世界の光。暗闇の中の甘い蜜。何も見えなくたって、貴方の方へ、私は向かう。
私は貴方の幸せになりたい。帰る場所になりたい。心を許してほしい。どうか、私を見てほしい。
この愛は私の炎。燃え尽きるまで、はためく翼。
貴方のためなら何でもできる。
たとえ、貴方が私を知らなくても。
【愛があれば何でもできる?】