ゆま

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 目を閉じたら広がる暗闇。けれど意識はなかなか落ちてくれない。チクタクと聞こえる時計の音が延々、延々続いている。
 目を開く。閉じたカーテンの隙間からうっすら漏れた街灯の光。時折ごおっと聞こえてくるのは国道を走る車の音。こんな時間に一体どこへ走るのだろう。考えてまた目を閉じる。
 微睡みかけた意識の中でリフレインする嗤い声。にやけた瞼のその奥の瞳の、ゾッとするような冷たさ。
 振り払うように寝返りを打って、身体をぎゅっと縮こめる。あの頃になんて戻れないのに。子宮で揺蕩う胎児のようだ。

 眠れない。眠りたいのに、その先に待つ明日が怖い。
 きっと大丈夫。明日になれば何事もなく、またいつもの日常。私はいつもの顔で、いつものように溶け込めばいい。
 少し失敗してしまったけど。なあに、気にすることはない。私はうまくやれる。大丈夫、取り繕える。

 目を瞑る。居ても立っても居られない口腔の渇き。起き上がって蛇口を捻って。再びまた布団にくるまる。
 静けさが心を揺さぶる。誰とも分かち合えない痛みと向き合う孤独な戦い。逃げ出したい。もう眠りたい。楽になりたい。

 真夜中には居たくない。けれど、明日にも行きたくない。光のないトンネルの中で、ずっと出口を探している。
 私は一体、どこへ向かえばいいのだろう。
 考えて、やがて、朝日が昇る。

 
【真夜中】

5/17/2023, 1:24:21 PM