幼い頃から大好きな絵本の物語。親しんで憧れたお姫様たちの物語。
王子様と出会って、恋をして、すれ違うこともあるけれど、最後はこの言葉で結ばれる。
『いつまでも幸せに暮らしました』
めでたしめでたしのハッピーエンド。
運命に導かれた真実の愛を得て。本の表紙を閉じるとき、お姫様はきまってみんな幸せだ。
私もいつか。願って、そうしてやっと巡り合えた。私の王子様。はじまった、素敵な素敵な恋物語。
私は知った。恋は苦しい。王子様を想う、それだけで胸が締め付けられる。届かない想い。重ならないタイミングのもどかしさ。すれ違うことすら叶わない日は、狂おしさにどうにかなってしまうそうだ。
それでもきっと。この人は私の運命だから。苦しさを乗り越えて、いつかあのお姫様達のように幸せな結末を迎えられる。
信じてた。夢を見ていた。けれど、どうしてだろう。
王子様は、私ではないあの子を迎えにいってしまった。
膨らんだ想いを伝えることすらできないまま。王子様が手を取ったのは、私ではないお姫様。
どうやら私はヒロインじゃなかったみたいだ。
運命を信じて待っていただけの私は、舞台にすら上がれずに。そんなことにも気付かずに、夢を見ていた滑稽なただの町娘。
これはお姫様の恋物語。
私ではない、別の誰かの。
【恋物語】
5/18/2023, 2:58:09 PM