役たたず、出来損ない………なんでもできる兄と比べられて、僕が罵られた回数は数知れず。
家での居場所がない中、兄はいつも僕を気遣ってくれた。成績優秀で、運動もできて、リーダーシップもあって、それでいて優しくて。
そんな兄はなにもできない僕にこんなにも良くしてくれる。怖かった。
上手くいかなくたっていいって、みんな言うけど……親はそれを認めてくれはしないし、優遇されるのは兄で冷遇されるのはいつだって僕。
勉強ができる兄は褒められ、例えいい点をとっても僕には嫌味ばかり。褒めて伸ばすってことを知らないのか。
まぁ、こんな親に褒められたとして成績が伸びるかはいささか不明だが。
そんな時に、僕は音楽に興味を持った。高二の初夏のことだった。あんな両親が僕の趣味にお金をかけてくれるわけはないし、密かにアルバイトをして死ぬほど頑張って専門学校に行けるまでになった。
もしアルバイトをしてるなんてバレたら、そんなことをする暇があるなら勉強しろだなんて言われることはもちろん、家に金をいれろと言われるに違いないと踏んだ僕は、兄にすら話さず貯金を続けた。
そして、高三…卒業したその日に、上京して仕事が安定した兄に連れられて家を出た。
兄はすごい人だった。僕のアルバイトのことも、行きたい学校のことも、全部知ってた。
そして僕が卒業したその日に、僕宛てにって分厚い封筒をくれた。
助けるのが遅くなってゴメンって、涙ぐみながら言ってた。
……僕の兄は優しくて頭もいい。でも、それだけじゃない何かがあって、僕はそんな兄が大好きだ。
突然だけど、俺の彼女がかわいい。
犬系猫系ってあるけど、それとはまた違って、なにかといえばハムスターみたい。
美味しいもの大好きで、幸せそうにほおばるところがほんとにかわいい。
基本的誰とでも仲良くて、人懐っこいから好かれやすいみたいだ。密かに男子からの人気が高いのは嫉妬案件だけど、俺のためにおしゃれしたり……俺のためにやってくれてる事が目に見えてうれしい。
笑顔もまぶしいし、なんなら声も可愛い。
勉強もスポーツもできてリーダーシップもある。
こんな完璧な彼女はどこにでもいるもんじゃない。
なんとなく彼女がいる男友達に自慢して、ふと教室で話す彼女を見る。
………あー、今日も太陽みたいに笑う彼女がかわいい。
…………喧嘩した。
いや、今回は俺が全面的に悪いんだけど……中々連絡できなかったのも、隠し事してたのも、全部記念日ためだったからなんか複雑でさ…。
俺もすぐ謝れればよかったんだけど、記念日までまだあるし、全部話すことまではさすがにできなくてさー。
いやだって、記念日のプレゼントとか、めっちゃ働いてやっと手に入ったものばっかりだしさあ、ここまでやったのにあっけなく話すとかできなくね???
……………いやそうなんだよ!それなんだよ!
結局意地張って仲直りから程遠くなってんだよ……!
いや…やっぱ、俺が悪いよなぁ………いくら記念日サプライズのためとはいえ、張り切りすぎてその時その時の彼女を大事にしてやれてなかった…。
……………決めた。頑張って準備した俺自身に申し訳ねぇけど、今回のサプライズはやめて、早めにプレゼント渡すことにするわ。
で、当日は彼女と計画してちょっと贅沢するか!
おぉちょい!なに勝手に寿司とかリクエストしてきてんだよ!この礼はするけど、記念日の贅沢に加担はさせねぇぞ!
ったく………んじゃーまあ、あいつが目覚める前にプレゼント準備すっかー!
……どんな仕事をしているかって?私の仕事は……人を、助ける仕事…かな。
大変じゃないかって?もちろん大変だよ!でも……楽しくて、好きな仕事なの。
昔からなにをするにも人の役に立つことが好きでね、手伝いしたりって……そんなことばっかりしてたの。
……辛いよ。例え人助けができても、私を助けてくれる人は多分居ない。ある意味孤独よ。
でもそれでも、できるからやるの。大変な仕事だからこそ、誰かのために私がやらなきゃって思うの。
ね、いいと思わない?
……そうね、でも………オススメはしないわ。人助けが好きな人でも……壊れていくだけだわ、結局。
あなたは……自分の好きなことやって、自由に人生を楽しんでね。………………私みたいに、ならないように。
……もう、終わりにしよう。
それが彼女の、最期の言葉だった。
人はいつか死ぬものだ。それはいつでも覆されることの
ない運命である。
…………彼女が死んだのは、これで5度目だ。どういうことか?まぁわかるわけはない。
こんなこと普通ではないし、ありえない。ファンタジーの世界に飛び込んだような、そんな感覚だった。
僕が彼女に未練があると、戻ってきて欲しいと願い、彼女の元へ行くため死のうと考えると、彼女は戻ってきてくれた。
もちろん、そこから幸せに生き延びるだなんてことがあるはずもなく、戻ってきた1週間以内にはもう1度死を遂げる。
何度も、何度も……助けようとした。助けるための策を考えた。でも……ありえないことゆえ、人からの意見をもらうことなど到底できず、ただただ何度も死ぬ彼女を苦しく見ていることしか出来なかった。
そんな時、4度目の死を終え、つまり、つい先程。戻ってきた彼女が、静かに言った。
もう終わりにしよう、と。ただ一言。涙が止まらなかった。だって、その言葉を聞けば最期、僕は彼女に辛い思いをさせてまで一緒にいるのだと、後悔するとわかっていたから。
……大丈夫、いつでもそばにいるよ。見守ってるよ。あなたが本当に大丈夫になるまで、ずっと隣にいるよ。
私はあなたといられて幸せだった。楽しかった。でも私が死んで、あなたが1人残された時、後を追うんじゃないかと心配だった。
…………だから……あなたが大丈夫になるまで、と思って戻り続けたわ。
でも……もう限界ね。
……いつかあなたが家庭をもって……愛する妻と子供ができて。孫ができて、ひ孫ができて?笑
…………それで、もうこれ以上の幸せはないって思ったら、私に会いに来て?お嫁さん紹介してよ。
待ってるよ。
ありがとう。またその時まで……さようなら。