『落ちていく』
青い空
白い雲
手を伸ばす先、
重力に逆らう髪の先。
強く光る太陽。
あの柵の上から飛び出して、
背中を重力に沿わせ、
身を任せ。
落ちていく。
地面の上へ。
世界の果てまで。
この暗闇の、もっと深くまで。
落ちていく。
衝撃が走る。
痛みが伴う。
暗闇へ。
意識まで。
落ちていく。
私は、
どこまでも。
『どうすればいいの?』
ただ淡々と送る毎日。
まるで心配事など何もないように振る舞い、
楽しければ広角を上げ、
何かあれば頭を下げた。
ただそんな毎日。
それでも、
少しずつ、
壊れていく。
人間というものは愚かで、
寛容な人間がどれほど少ないことか。
自分が嫌であれば、伝えなければ分からない。
また然り、伝えられなければ、分からない。
故に、はっきりと、言葉を発する。
気が付けば、
その人は私の近くにはもういなくなった。
正解は、なんだったのだろう。
テストみたく、解答が明確にあればいいのに。
どうすればよかったんだろう。
私は、
どうすればいいの?
『キャンドル』
薄暗く静まり返り、
ひんやりとした室内。
月は天頂に近く、
一面の粒子状の星。
窓辺の机には月光が差し込み、
細く、物静かな雰囲気を醸し出す。
取手が付いた金色の燭台。
3.9インチの、上部が溶けた蝋燭。
灯火は、辺りに少しだけ希望を与える。
木製の机と椅子。
腰を掛け、左手元に燭台を置く。
白い羽ペンを右手に持ち、インクに浸す。
そして くすんだ色の羊皮紙に、執筆する。
「キャンドル」
薄暗く静まり返り、
ひんやりとした室内。
月は天頂に近く、
一面の粒子状の星。 …………
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『冬になったら』
ずっと、覚えてる。
あの無垢な表情を。
ずっと、覚えてる。
あの温もりを。
息は白く
指先は悴む
繋いだ手は冷たく
積もった雪に足をとられる
毎年、冬になったら、思い出す。
分厚い手袋を はめて
肩甲骨まで伸びた髪をなびかせ
宝石のような瞳の上の睫毛は 粉雪で白く
寒さ故に 柔らかなその頬を赤く染め
やさしい笑顔で駆け寄る貴女
そんな貴女はもういない。
今はまるで冬のような、貴女。
いつになったら、春が訪れるのかしら
『紅茶の香り』
鼻先に感じる、心地よい香り。
揺れるカーテンの隙間から入る暖かな日差し。
ゆったりと腰を掛け、右手にはティーカップを、
左手には分厚い本を。
昼下がり。
庭のマリーゴールドは鮮やかに色づき、
マスカットのような風味のダージリン。
スッと鼻に抜ける爽やかな口当たり。
紅茶の香りとともに、左手は忙しく頁を送る。
ふと、隙間から窓の外を見る。
もうこんなに時間が経っていたとは。
おやつの時間ですよと部屋の戸を叩く音がした。