『君と見た虹』
帰りが遅くなったが
傘を忘れた僕は、
ひとりの優しい 彼女の傘に
入れてもらった。
頭半分ほどの身長差だったが、
彼女の顔は近く、
歩くたびに心臓の音が聞こえる。
右肩に当たっていた雨粒は無くなり、
今しがた空は明るくなり、
陽の反対には大きな光の輪ができていた。
きれいだね なんて声を掛けられ、
さらに鳴り止まなくなる心臓。
虹色の光は、まさに祝福しているようで。
君と見た虹。
それが、最初で最後の初恋だった。
10年後にも、
あの虹を、 君と見た虹を、
また見られるなんて。
『時間よ止まれ』
いつまでも
いつまでも
いま が続けばいいのに
この楽しい青春の1フレームが、
ずっと、
コピー&ペーストされればいいのに
部活で汗を流し、
友達と笑い合い、
涙を流し、
たまには恋人の心音を聞く。
ずっと、ずっと、
この日常であればいいのに
時間よ止まれ
もう何も失いたくないから
『ありがとう』
あいしてる、って、
りゆうもなく言える関係でいたい。
がーべら みたいな、綺麗な君を、
とても愛している、って。いつまでも、
うそ 偽り無く、ずっと、愛し続けていたい。
『そっと伝えたい』
毎日、毎日
ただ淡々と空を見つめて
変わらない日々を退屈として
焦ることも、
嘆くこともなく
この場の藻屑であり続ける。
輝く彼女には届かない。
もう、何も届かなくても
そっと伝えたい。
親愛なる────へ。
まだ届く。
実力も、言葉も、
その手紙も。
『隠された手紙』
「私がこの世から消え去ったとき、
何か残るのか
、、否。
地位もなければ功績もない。
故に何も残らない。
私が遺すものは無に等しく
私が生きた証は遺らない。
君に託す すべてのものは
この世の未来への手紙。
これが最後。
強く生きなさい。
私の分まで。 」
名前のない、手紙。
遺品整理のときに見つけた。
親父の
隠された手紙。
俺が10年前 手に掛けた、
親父の存在。
ちゃんと残っているじゃないか。