『1つだけ』
紅茶茶碗に淹れられた液体の色を眺めては、慣れない香りが鼻を擽る。
上質な茶葉が引き出すその香りは、余韻が長い。
きらきらとした陽が差す席で、
ひとり 知らない世界を愉しもうとしている。
口元に添えられた紅茶茶碗の底には、細かな茶葉が沈んでいる。
少し傾け流れるダージリンティーは、透き通った琥珀色に輝く。
知らない味を、知らない香りを身体が感じるとともに、舌に残る少しの苦味に戸惑いを覚える。
卓上の隅に置かれた角砂糖の匣を開け、
1つだけ、
陽が反射する水面に落とす。
甘美な香りが漂う昼下がり。
静やかな店内で、焼菓子とともに
微かな甘さを口にする。
『枯葉』
涙が頬を伝うのを
止めたくて、
ふと、上を見ると
味気ない空をバックに、
細く揺れた枝にピントが合った。
そこには一枚、色落ちした葉。
風に揺れ、今にも支点は力尽きそうである。
其れは、僕の涙が零れるのと
同じくらい、ぎりぎりで。
ぱ と、
1枚残っていた枯葉はひらひらと風に流れてゆく。
気付けば
僕の瞳からは、泪が伝っていた。
『伝えたい』
教室の端で佇む彼の横顔は、綺麗だった。
バレンタインが近づくこの季節で、気持ちが高ぶっているのだろう。
彼の優しいところが好きだ。
彼の格好良いところが好きだ。
彼の整った顔が、笑貌を見せるとき、
私は魅せられる。
どう思われているのだろう。
そう考えることが多くなる。
もし、好きだと伝えたら、
どう思うのだろう。
寧ろ彼方側から伝えてくれとも夢に見る。
猪口令糖の甘い香りがする。
誰にも言えないこの感情は、
心の中で静かに息絶えていくのだろうか。
伝えたい。
そう思うのは罪なのだろうか
そうして羞恥心と自意識が邪魔をしてばかりいる
『優しさ』
僕は貴方にどう接していただろうか。
ちゃんとまっすぐ関われただろうか。
貴方と手を振ってからの帰り道は
ひとり、一言一句鮮明に思い出して
過去の失言を重ねて
一人反省会をしてしまう。
貴方は僕をどう思っているのだろう。
拙いことを、言ってはいないだろうか。
その心配だけがいつも心に残る。
僕の心には、いつもその凝りが残る。
優しさ を求めて。
優しくできなかった過去の自分へ。
きっと優しくなれない未来の僕へ。
今日の僕が、親切だと思われますように。
優しくないひとだと、思われませんように。
僕が、貴方にも
そして僕自身にも
優しくなれますように。
『もしも世界が終わるなら』
ずっと生きていてほしい。
ずっと愛していたい。
貴方がずっと笑っていられるように
貴方が悲しむことが無いように
貴方がくれたすべてのものを
忘れることがないように
もしも世界が終わるなら
少しずつ終わっていくのなら
明日が来ないのだとしたら
何もない世界には
空白以外に何が残るというのだろう