『カーテン』
その隙間から差し込む光には
夏らしさと呼べばいいのか、
部屋の床には一本の線。
休日の昼下がり。
エアコンの効いた部屋で
カーテンを閉めても眩しい光。
カランと鳴るカルピス。
滴る水滴。
大量の種。
やったままの課題。
フローリングの床に、
汗で湿る肌がぴたりと付く。
カーテンの隙間からのぞく、
その光の筋は暑くて。
ふと、窓の外
金魚が描かれた風鈴が
その隙間でチリンと鳴った。
『最後の声』
急いで駆けつけた病室。
カーテンレールで仕切られた寝台。
サイドテーブルの華やかな造花。
愛して、
笑って、
泣いて、
共にして。
彼はそっと息を吸って、
告げる。
「ありがとう」
細い声で、彼は言う。
そしてそっと、呼吸が止まる。
一番彼に愛された私は、
涙も流れぬまま。
ただ無言で叫ぶ。
人は、あい で始まり
をん で終わるという。
最後の声はきっと、
最期の をん、
恩だったのだろう。
『小さな愛』
大円の中の一輪。
その中央。
それは例えば
薔薇
チューリップ
百合
向日葵
色、かたち、大きさ異なる
花の中で咲き誇る、
貴方を象徴する花。
それは中心であり、
主人公であり、
大きな愛であり、
花束の華である。
小さな愛。
華奢でいい。
色とりどりの中で一輪
美しく咲く
可憐な華。
その花はまるで、
貴方だと言わんばかりに。
『空はこんなにも』
教えてください。
その悲劇の真相を。
教えてください。
貴方がどうなってしまったのかを。
襟から白檀。
袖から伽羅。
ほんのりとした香に、
漆黒の正装。
右手には紙袋を。
左手にはハンドバッグを。
涙が垂れたのか、
目元や頬の化粧は崩れ。
涙一つない空。
もう うつし世にはいない貴方に
涙を流して。
今日の空はこんなにも、澄んでいて
まるで嫌味を吐いているくらいに。
私も貴方と、
その空へ昇れればよかったのに。
『子供の頃の夢』
儚く。
一瞬にして。
望んだ事実すら
忘れてしまうくらいに。
「ケーキ屋さんになりたい」
「歌手になりたい」
「消防士になりたい」
「宇宙飛行になりたい」
そう何度か唱える。
10年、また10年。
そんな夢は記憶の隅に、
残業を繰り返す。
儚く。
届かないような夢。
その感性の豊かさは
今ではもう
どこかに置いてきてしまったようで。
子供の頃の夢。
ずっと持ち続けていられたら
今 という 未来 は
変わっていたのかも
しれない。