熱い鼓動
今日、皆で行ったピクニック。
彼女がずっと俺のそばを離れなかったのは、俺の熱い気持ちが届いたんじゃなくて、人より熱い俺の体温のせいなんだ。
あそこ、蚊が多かったもんな。
体温高い奴は刺されやすいって言うし、ドキドキ過呼吸だったし、蚊除けにされたんだろうな。
俺は腕を掻きながら、彼女がくれたとても良く効くという痒みどめの塗り薬を眺める。
なあ、絶対そうだよな?
タイミング
あたしの好きな時にだけ、あたしの好きなやり方で撫でて欲しいのよう!
ぷりぷり怒るお猫様に、ごめんごめんと平謝り。
虹のはじまりを探して
雨が上がって綺麗な虹が出た。
何となく詩的な気分になった俺は、ソファーで本を読んでいる彼女に声をかけた。
「ドライブに行こうか、虹の麓まで」
えー、と彼女は顔をしかめる。
「いいよ暑いし。虹の根っこなんて見飽きてるし」
「見飽きたって…」
ふざけた言い草に、俺はちょっとムッとする。
「へぇ、どこで見たって言うんだよ」
「だってうちの田舎じゃ珍しくないもん」
ほら、と見せられた画像には、田んぼの真ん中からにょっきり生えている巨大な虹が写っていて、俺は目を疑った。
半袖
隣のお姉さんは麦わら帽子に首タオル、短パンサンダル。
蝉の声に囲まれて朝から洗車。
ホースの水できらきら虹を作って、愛車のボディを拭きあげたら、上から下まで水浸し。
半袖ワンピースにさらっと着替え、涼しい顔で出掛けて行きます。
何だか素敵。
もしも過去へと行けるなら
大蛤の吐く蜃気楼に魅せられて、海辺の町を離れられずにいる。
蛤が見せてくれるのは、懐かしい風景と二度と会えない人達。
それは優しい愛しい、でも触れることの出来ない夢だ。
「もう来ない」
私は蛤に言った。「変えられない過去を、いくら見たって仕方ないもの」
「いいや、あんたはまた来るよ」
蛤は憎らしく笑う。
「未来が見えてないからね。皆そうさ、ほら」
うつむいた人影がゆらゆらと、砂浜をこちらへやって来る。
一人、また一人。
ああ皆とても疲れているんだ、そんな時代だ。