True Love
遠い昔、黄昏色の目をした竜族の娘が言ったんだ。
約束は嫌い、心を縛ってしまうから。
だから何も約束しないで、いつかを願いにして。
約束は守られなければならないけれど、願いはただ胸に抱いていられるでしょう?
私とあなたの時間は違う。
あなたの願いが消えたなら、そこで幸せになって。
もし願いが苦しいほど大きくなったら、その時は……。
「そろそろ苦しくなったんだよ、俺は」
男は皺の刻まれた顔でそう笑い、全てを捨てて村を出て行く。
功労者で皆の信頼厚く、長でもあった彼が決して妻を娶らなかった理由を、今になって知る。
僕には分からない。
異種に惹かれる気持ちも今さら出て行くことも。
僕には真実愛する人がいて、片時も離れる気はないからだ。
男は若者のような足取りで去って行く。
遠く黄昏の空に、緩やかに飛翔する竜の幻が見える。
またいつか
数年前に断捨離をした。
またいつか着るはずの服、使うはずの道具、読み返すはずの本、手紙、思い出だけで用途のない物たち……いやいや、いつかなんて来ないでしょ!と思って片っ端から処分した。
でもなぜだろう。無くしたとたん、いつかは外からやって来る。
二十年ぶりに届いた葉書の差出人は誰?
確かに一時やり取りしていた記憶はあるけれど、朧ではっきり思い出せない。
こういうマイナーな本を探してて…と知人に相談され、それ持ってた!でも処分しちゃった…と言うの口惜しすぎる。
新しいジャケットに似合いそうだった、あのインナーはもうない。
いつかは突然やって来る。
昔親友だった、行方知れずのあの子のことをふと思い出す。
星を追いかけて
まるで流れ星のように、航空灯が夜空を横切ってゆく。
君の乗った便かな、まさかそんなはずはない。
確かめる術もないまま、心がずっと後を追う。
今を生きる
異世界に転生しませんか?
天使にも悪魔にも見える男に、そう誘われた。
「貴女の人生つまらないでしょう。次は絶世の美女の、凄腕魔法使いなんてどうです?」
ええと…。私は戸惑った。
「美人の魔法使いになって、異世界で何をすれば良いんですか?」
「それはもう、勇者と一緒に闘ったり、人々を導いたり、王に寵愛されたり」
「それって危険だったり、重い責任があったり、羨望や嫉妬の的になったりしますよね」
「まあ多少は」
「だったらもっとリスクの少ないモブキャラ、例えば村人Aとかになれませんか?」
「はあ?」
男は呆れて行ってしまった。
気づけば自転車で側溝に突っ込んでいて、奇跡的に無傷で起き上がると、最初に見えた景色は青く広がる田んぼだった。
そう、そもそも私はこの世でも村人A
だったっけ。
小さい器と弱い心の、何者でもないその他大勢。
でもそれがダメだとも思わない。
村人Aはただ懸命に、コツコツ今日を生きましょう。
special day
今日は特別楽しみなお出かけの日。
朝早くから、家族でテーマパークへ行くのです。
でも少女はずっとモヤモヤしています。
お父さん、お兄ちゃん、お祖父ちゃんまで一緒に行くのに、どうしてお母さんだけお留守番なの?
みんないじわるだ。お母さんも連れて行ってあげたら良いのに。
実は家族を送り出した後、お母さんは家でうきうきしています。
夜まで自由な一人の日、自分のためだけの時間をさあどうやって過ごしましょう。
今日は本当は子供たちではなく、いつも忙しいお母さんのためのspecial day なのです。
みんなにとっての嬉しい一日。
アトラクションが見えてくる頃には、少女の心も踊り出します。