半袖
隣のお姉さんは麦わら帽子に首タオル、短パンサンダル。
蝉の声に囲まれて朝から洗車。
ホースの水できらきら虹を作って、愛車のボディを拭きあげたら、上から下まで水浸し。
半袖ワンピースにさらっと着替え、涼しい顔で出掛けて行きます。
何だか素敵。
もしも過去へと行けるなら
大蛤の吐く蜃気楼に魅せられて、海辺の町を離れられずにいる。
蛤が見せてくれるのは、懐かしい風景と二度と会えない人達。
それは優しい愛しい、でも触れることの出来ない夢だ。
「もう来ない」
私は蛤に言った。「変えられない過去を、いくら見たって仕方ないもの」
「いいや、あんたはまた来るよ」
蛤は憎らしく笑う。
「未来が見えてないからね。皆そうさ、ほら」
うつむいた人影がゆらゆらと、砂浜をこちらへやって来る。
一人、また一人。
ああ皆とても疲れているんだ、そんな時代だ。
True Love
遠い昔、黄昏色の目をした竜族の娘が言ったんだ。
約束は嫌い、心を縛ってしまうから。
だから何も約束しないで、いつかを願いにして。
約束は守られなければならないけれど、願いはただ胸に抱いていられるでしょう?
私とあなたの時間は違う。
あなたの願いが消えたなら、そこで幸せになって。
もし願いが苦しいほど大きくなったら、その時は……。
「そろそろ苦しくなったんだよ、俺は」
男は皺の刻まれた顔でそう笑い、全てを捨てて村を出て行く。
功労者で皆の信頼厚く、長でもあった彼が決して妻を娶らなかった理由を、今になって知る。
僕には分からない。
異種に惹かれる気持ちも今さら出て行くことも。
僕には真実愛する人がいて、片時も離れる気はないからだ。
男は若者のような足取りで去って行く。
遠く黄昏の空に、緩やかに飛翔する竜の幻が見える。
またいつか
数年前に断捨離をした。
またいつか着るはずの服、使うはずの道具、読み返すはずの本、手紙、思い出だけで用途のない物たち……いやいや、いつかなんて来ないでしょ!と思って片っ端から処分した。
でもなぜだろう。無くしたとたん、いつかは外からやって来る。
二十年ぶりに届いた葉書の差出人は誰?
確かに一時やり取りしていた記憶はあるけれど、朧ではっきり思い出せない。
こういうマイナーな本を探してて…と知人に相談され、それ持ってた!でも処分しちゃった…と言うの口惜しすぎる。
新しいジャケットに似合いそうだった、あのインナーはもうない。
いつかは突然やって来る。
昔親友だった、行方知れずのあの子のことをふと思い出す。
星を追いかけて
まるで流れ星のように、航空灯が夜空を横切ってゆく。
君の乗った便かな、まさかそんなはずはない。
確かめる術もないまま、心がずっと後を追う。