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7/21/2025, 8:57:12 AM

今を生きる

 異世界に転生しませんか?
天使にも悪魔にも見える男に、そう誘われた。
「貴女の人生つまらないでしょう。次は絶世の美女の、凄腕魔法使いなんてどうです?」
 ええと…。私は戸惑った。
「美人の魔法使いになって、異世界で何をすれば良いんですか?」
「それはもう、勇者と一緒に闘ったり、人々を導いたり、王に寵愛されたり」
「それって危険だったり、重い責任があったり、羨望や嫉妬の的になったりしますよね」
「まあ多少は」
「だったらもっとリスクの少ないモブキャラ、例えば村人Aとかになれませんか?」
「はあ?」
 男は呆れて行ってしまった。

 気づけば自転車で側溝に突っ込んでいて、奇跡的に無傷で起き上がると、最初に見えた景色は青く広がる田んぼだった。
 そう、そもそも私はこの世でも村人A
だったっけ。
小さい器と弱い心の、何者でもないその他大勢。
でもそれがダメだとも思わない。
 村人Aはただ懸命に、コツコツ今日を生きましょう。

7/19/2025, 7:49:38 AM

special day

 今日は特別楽しみなお出かけの日。
朝早くから、家族でテーマパークへ行くのです。
 でも少女はずっとモヤモヤしています。
お父さん、お兄ちゃん、お祖父ちゃんまで一緒に行くのに、どうしてお母さんだけお留守番なの?
 みんないじわるだ。お母さんも連れて行ってあげたら良いのに。

 実は家族を送り出した後、お母さんは家でうきうきしています。
夜まで自由な一人の日、自分のためだけの時間をさあどうやって過ごしましょう。
今日は本当は子供たちではなく、いつも忙しいお母さんのためのspecial day なのです。
 みんなにとっての嬉しい一日。
アトラクションが見えてくる頃には、少女の心も踊り出します。

7/17/2025, 1:01:48 AM

真昼の夢

 朝、目覚ましのアラームで無理やり目をこじ開けた。
 昨日も残業だったんだ、さっき眠ったばかりの気がする。
眠い、まだまだ寝ていたい、でも起きて仕事に行かないと。
あと五分、五分だけ目を閉じていよう。

 時計を見たら昼。
俺はゆるく寝返りをうって、うつ伏せになった。
 大遅刻だぞ。慌てないのかって?
ははは大丈夫、きっと俺は俺の夢だから。
本物の俺はあの時起きて、ちゃんと仕事をしながら二度寝の夢を見てるんだ。
 その証拠にほら、体がベッドに溶けて消えてゆく。
おや?デスクの前の俺も消えてゆく。

7/16/2025, 4:17:11 AM

二人だけの。

 ずっと、部屋の姿見鏡とギクシャクしていた。
それは年々体型が劣化してゆくのを、何とかしなさいよ!と鏡が責めてくるからだ。
 こっちだって分かってはいる。
だからピラティスとかウォーキングとかやってみたけど、続かないんだもん、そもそも体動かすの苦手なんだもん。
 が、鏡と目も合わさなくなった頃、家で出来るシンプルなエクササイズに出合って、気づけば半年続いていた。
 「やれば出来るじゃない!」
鏡は大喜びだ。
「背中がスッキリしたし、首周りが細くなったよ。二の腕と足も」
「本当にそう思う?家族は誰も気づかないけど…」
「本当だって」

 そんな訳で優しくなった世界、ただし私と鏡だけの。
良いのだ、気休めでも誰も気づいてくれなくても。
ちょっとおしゃれが嬉しくなって、ちょっと毎日幸せが増えれば。

7/15/2025, 12:30:40 AM



 子供の頃はみんなやっていたと思う。
夏、扇風機の前で裾を持ち上げ、服の中に風を通して体を一気に涼しくする技。
ワンピースが一番やり易かった。
 大人になってもお風呂上がりにこっそりやっていたが、今年は夫が扇風機を二階へ持って行ってしまった。
 となると、代わりになりそうなのはリビングのアレしかない。
 
 「何してるの?」

 だからね、そういう事情でサーキュレーターを跨いで仁王立ちしてるんです。
真下から風を取り込んでるんです。
そんなびっくりした顔しないでよ。

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