隠された真実
ここはレトロな隠れ家的純喫茶で、私は店のマスターだ。
新顔の若い男女客が、カウンターの端で大変な秘密を打ち明け合っている。
「実は俺、狼男なんだ。今まで言えなかったけど…」
「じゃあ私も…本当は25歳じゃないの」
「えっ、いくつ?」
「125歳。昔うっかり人魚のお肉を食べちゃって」
「そうなんだ。でも俺、歳の差なんて全然気にならないよ」
「私も毛深い人、全然平気」
信じがたい会話が聞こえ、何だかんだ好き合っていそうな彼らを私は愕然と眺める。
ただ二人とも気づいているかな?
この店も私も、とっくにこの世のものじゃないことを。
隠されたこの場所に、生ある者がどうやって迷い込んだのか。
あと数分で日が落ちて、死霊の常連客たちが押し寄せてくるのだが。
風鈴の音
南部鉄器の風鈴が、狂ったように鳴っている。
独居の伯父が緊急入院した日のまま、軒下の雨風に煽られて。
聞く人のいなくなった風鈴の音は、風の悲鳴のよう。
お爺ちゃんが帰って来ない!
びしょ濡れで叫ぶ風鈴をそっと抱き下ろして連れて帰る。
おいで、私の所へ一緒においで。
拭き清めて新しい短冊を付けてあげる。
悲しまないでまた涼やかに歌って。
そして皆で、お盆を待ちましょう。
心だけ、逃避行
暑い。
こんな日は鱧の湯引きが食べたいな、ガラスのお皿に涼しげに盛って、酢味噌を添えて。
焼き茄子も良いな、冷たくした翡翠色の茄子にたっぷり生姜を乗せて。
それから茗荷を混ぜた胡瓜もみ。大葉を散らした冷奴。
どれが食べたい?と夫と息子に聞くと、即答でいや肉!肉!肉!
肉焼くだけでいいからね!野菜とか混ぜなくていいから、ガッツリ!
28センチのフライパンを取り出しながら、私の心はじわじわと、無への逃避行を始める。
冒険
幸せにしますとか大切にしますとか、一生守りますとか。
どんな言葉にも頷いてくれない手強いジュリエットに、やけくそで言ってみた。
「じゃあ、一緒に人生を冒険しよう」
彼女は満面の笑みで、月夜のバルコニーから飛び降りてきた。
届いて……
訳あって犬を引き取ることになった。
もう成犬で、人慣れしていなくてすぐに歯を剥く。
何かしたら噛むわよ…と言わんばかりの嫌われようだ。
仕方がないのであまり近寄らず、ただただ好意を送ることにした。
日に何度も「可愛いね」「賢いね」「お利口さんだね」「大好き」と笑顔で褒めちぎっていたら、なんと一月くらいで撫でさせてくれるようになった。
そうだよね、人間だって褒められて悪い気はしないもの。
好意が届くと素直に嬉しいもの。
犬は今、私の足にくっついて寝ています。可愛い。