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6/3/2023, 4:22:33 PM

失恋

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失恋をしたときの「心にぽっかり穴が空いたような」という表現は言い得て妙だと思う。








私はある男性に恋をした。話が面白くて誠実で優しく自分の芯をしっかり持っている人。人として尊敬出来る人だ。私はこの気持ちが抑えきれず、どうしても伝えたくなり、当たって砕けろの精神で告白することにした。

私は彼を映画に誘った。プランはこうだ。まずは最近流行りのあの映画を見て、その後一緒に映画館近くのカフェバーでディナーをする。お店を出て駅までの道にある橋の上で告白する。かなりベタかもしれないが何故か上手くいく気がしていた。

当日、私は、前日から悩みに悩んで決めたチェックのワンピースに身を包み、いつもよりもかなり時間をかけて隙のないメイクを施した。あまりキツくなりすぎないように、ほんのり香る練り香水を手首や耳の後ろに仕込んで、大事な日用のピアスをして家を出た。

彼と合流した。彼は私を見るやいなや即座に私の服装とアクセサリーを褒めた。そして顔をじーっと見ると、メイクの違いにまで気がついた。驚いた。でもすごく嬉しかったし、気合いを入れた甲斐があったと思った。そして映画館へ。彼もこの作品は気になっていたそうで、感想を言い合いながらカフェバーへ向かった。彼が隣にいる緊張感と高揚感で正直映画どころではなかった私は適当に話を合わせた。カフェバーでの時間はあっという間だった。本当に幸せだった。

そして帰り道。いよいよその時が来る。そわそわしてしまうが、悟られないよう必死でいつも通りを演じた。橋の上に差し掛かった時、思わず「わぁ...」と声が漏れる。一面の美しい夜景が広がっていた。思わず目を奪われる2人。「ここだ!」と思った。

「実は私、貴方のことが好きです」

彼は何も言わなかった。でも表情で分かった。私の告白が失敗した事が。でも彼は優しい。すごく言葉を選びながらごめんなさいの返事をしてくれた。



それから彼との関係はギクシャクした。当たり前だ。心底後悔した。前を向くなんて到底出来そうもない。でも世界は無情だ。私がどれだけ明日を呪っても明日が来るのだ。でもこれを乗り越えられた時、私は強くなる。前に進める。

6/1/2023, 10:32:10 AM

梅雨

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梅雨入りのニュース。もうそんな時期か。雨は苦手だ。

そういやあいつは雨が好きだったな。なんてことを唐突に思い出す。雨音を聞くと落ち着くらしい。

あいつが死んだ時も雨が降っていた。何も知らない大人たちは「こんなときに雨だなんて。梅雨だもんねえ。」とかほざいていたのを覚えている。違う。あいつにとっては、好きな雨音を聞けて幸せだったはずだ。

雨が降るとあいつを思い出してつらくなるから、雨は苦手だ。でもあいつが降らせているような気がして、繋がっているような気がして、少し不思議な気分になる。

5/30/2023, 11:52:25 AM



何もかもが上手くいかない。仕事も人間関係も恋愛も。




必死に勉強して取得した資格。就職氷河期なんて言われているこの時代に、やっとの思いで今の会社に就職した。大学を卒業して初めて職に就いた私は右も左も分からなかったが、必死に食らいついてなんとか毎日を過ごした。なんとか頑張っていたつもりだったけど、要領の悪い私は御局様に新人いびりを受け、上司には毎日のように怒鳴られ、あっという間に同期には置いていかれた。精神的にも肉体的にも疲弊していった。何度も辞めたいと思ったし、朝起きると憂鬱で動けなくなる。でもこれを手放すと私はまた就活に戻ることになる。ただでさえ就職氷河期なんて言われているのにそんなに簡単に次の就職先が見つかるはずがない。


何もかもが上手くいかない時ってのはあるもので、大学の時から付き合っていた同棲中の彼氏に別れ話をされた。長く付き合っていたのもあって、気を遣わなくなりすぎていたのかもしれない。口を開けば愚痴ばっかり、家のことも任せっきりで、家にいる時間はほぼ寝てる。そんな私にうんざりしてしまったらしい。彼氏もかなり色々考えてくれていたみたいで、別れ話の時は私より先に彼の涙が溢れていた。心底申し訳ない気持ちになった。


彼との家を出てとりあえず実家に帰る。私には何もなくなった。残ったのは仕事だけ。ああ。生きていたくない。


外は雨だ。このじめじめした空気が憂鬱な気分を増幅させる。急に涙が溢れた。全てを終わらせたい気持ちになった。ゆっくり歩いているとだんだん足が重くなっていく。それに抗うように私は走った。ただ必死に走った。何かから逃げるように。いや、何もかもから逃げるように。







ただ必死に走る私。何かから逃げるように。

5/28/2023, 9:40:25 AM

私は生前、何をやっても上手くいかないと感じる時期があった。毎日生きるのが辛かった。他の人に話しても『そんなことで』と一蹴されるのが怖くて1人で抱え込むしかなかった。その時の一瞬の気の迷いだったかもしれないとも思うが、変な行動力を発揮してしまい、自殺した。

死んだはずなのに目が覚めた。私が死んでどのくらい経ったのかは分からない。でも目を開けた瞬間にここが死後の世界であることはすぐ分かった。天国だの地獄だの、そんな話は完全にファンタジーだと思っていた私はかなり目を疑った。列ができていてその先に鬼...?いや多分閻魔大王ってやつだろう、アニメで見た事ある。思ったより大きくて顔が怖い。この距離じゃさすがに何を言っているかは分からないが、列から1人ずつ閻魔大王の前に立ち、閻魔大王はその人たちを右や左に次々と振り分けていく。振り分けられた人達は不思議な円の上に立つ。すると一瞬で姿が消えるのだ。恐らく天国と地獄に振り分けられて、ワープホールみたいなもので飛ばされているのではなかろうか。生前居た世界では考えられないことだが、1回死んでいるのもあってかなんかあっさり飲み込めた。とりあえず並んでみるか。

並んでみると意外と待ち時間が長かった。私はどっちに振り分けられるのか、ソワソワする。でも正直分かりきっていた。私の行先なんて地獄に決まっている。ストレスに耐えかねて自傷行為がエスカレートしていったとき『親から貰った体を大切にしないなんて〜〜』とか、『もう少し頑張ってみたらきっと報われるよ』とか色々言われた。全く刺さらなかった。当事者以外からは自傷行為なんて親から貰った体を傷つける行為にしか見えないらしいし、私みたいなやつの気持ちなんて絶対に分からないのだ。ああなんか憂鬱になってきた。

ついに私の順番。怖い顔の閻魔大王が鋭い目付きでこちらを見る。



『お前は...天国行きだ!』



え...?聞き間違い?案内人のような人が来て天国行きのワープホールへ案内しようとする。



「ちょ、ちょっと待ってください!なんでですか?」



閻魔大王も少し驚いていた気がする。後から聞いたことだが、地獄行きの人間が理由を問うことはあっても、天国行きの人間が理由を問うことはあまりない事だそうだ。



『...お前は生前大罪を犯したわけではないだろう』


「私は自殺しました。親から貰った体を傷つけもしました。頑張れませんでした。」




言いながら涙が出てきた。取り返しのつかないとんでもない事をしてしまった自覚が湧いてきた。死んだことを後悔はしているわけではないが周りの人間は私を愚か者だと言うだろう。



『確かにお前の体は親から貰った体だったかもしれないが、貰った時点でお前の体だろう。そしてその傷や跡は自分を傷つけてまで必死に生きようとした証なのでは無いか?頑張れなかった?頑張っていない人間は死にたいとは思わないし、そういう奴に限って無責任にもっと頑張れなんて言葉をかけるものだ。』



言葉を失った。こんなにも生前の私の気持ちを分かってくれるなんて。閻魔大王はすぐに次の人間を振り分け始めた。それに伴って私は案内人に天国へのワープホールに連れていかれた。





初めて誰かに認められた気がして本当に嬉しかった。ずっと私はあの閻魔大王の言葉を忘れられないし、何度も思い返すだろう。







天国と地獄

5/26/2023, 3:28:36 PM

月に願いを

私の名前は瑠奈(るな)。出産予定日が満月の日だったので、母がローマ神話の月の女神、ルナから取ったそうだ。私の母は出産時に亡くなってしまった。だから母親の記憶は全くない。

母が私の出産時に亡くなったと聞いた時、私はかなりショックを受けた。人を1人殺してしまったような気持ちになった。苦しくて辛くて、死んでしまえば母と会えるかも、なんて馬鹿馬鹿しいことを考えた時もあった。でも母は命懸けで私を産んでくれたのだ。その命を自ら絶つなんてそんなことはしてはいけない、と、思いとどまった。

私のこの名前は、母から貰った最高のプレゼントだ。私は月を見る度に遠くの母に思いを馳せる。そして願う。

『どうか、見守っていてね』

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