白色

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5/25/2023, 3:43:49 PM

『雨、降ってきちゃったね......』

この言葉には少しの期待が込められていた。




今日は待ちに待った初デートの日。でも、その辺のカップルの初デートとはわけが違う。本当に待ちに待った。

わたし達はTwitterで出会った。所謂“ネット恋愛”ってやつ。これだけ聞くと、えっ...と思う人もいるかもしれない。否定的な意見があるのも頷ける。ネットなんて顔も分からないし、何だって偽れるような世界。そんな世界で出会った人間に恋愛感情を向けるなんてそんなことあるのか?わたしもそう思っていた。

最初は気の合う歳の近いフォロワーさん、というだけ。一緒にゲームをしたり雑談をしたりという具合で仲良くさせてもらってはいたものの、そんな繋がりはよくあることだし、特段気にしているわけではなかった。年単位でそんな関係が続いた。インターネットの住人には分かってもらえると思うが、ネットの相手だからこそできる話もある。時には深い話で語り明かす夜もあった。

わたしはいつの間にか彼を恋愛対象として見ていた。わたしは人を好きになりやすいタイプというわけではない。今までまともに好きになった人間なんてほとんどいないと言ってもいいくらいだ。そんなわたしが?しかも会ったことも無い人を?でも所詮はネット。いくら仲良くなったって画面の中の人だ。そんなに深い感情を抱いてはいけない。葛藤はあったが、わたしは彼に対して出来るだけ今まで通り接し、自分の感情を殺すことに努めた。

そんな時、彼に通話に誘われた。いつもの事だ。通話が始まっていつも通り適当な挨拶をする。いつもとは違う異様な雰囲気だった。上手く言えないけど確実に何かが違っていた。一体何を言われるんだろうと身構える。すると少し間が空いて彼の口が開いた。


「...俺さ、白のこと好きなんだよね。」


この一言をきっかけにわたし達のお付き合い(仮)はスタートした。といってもこの時点でわたし達はまだ会ったこともない。だから『(仮)』である。お互いの好意を確認しただけ、とでも言おうか。


そして待ちに待った初デートの日。今にも雨が降り出しそうな、あいにくの天気である。彼は大きなキャリーケースを引きながらわたしの前に現れた。初対面だけど初対面じゃないような、不思議な感覚。いつもの通話のときみたいな調子は出なくて、どこかよそよそしくなる。内容の無い会話をした気がするけれど、本当に覚えていない。会う前に脳内でいろんなシュミレーションをしたのにいざ会ってみると全て真っ白になった。

どうしても彼に触れてみたかった。そこにいるんだって感じたかった。でもなかなかそうはいかない。急に手を繋いだりしていいものだろうか...なんて中学生みたいな事も考えた。

すると、ぽつりぽつり雨が降ってきた。


『雨、降ってきちゃったね......』


期待を込めて呟く。傘もってるよ、と彼。傘を忘れたふりをして彼の傘に入れてもらった。さりげなく彼の腕を掴む。あぁ、本当にここにいる。自分の好意を認識してから今日まで、かなりの時間があった。それもあって今この瞬間があまりにも幸せで永遠に続けばいいのにとまで思った。
デート中、天気はずっと雨。わたしは人生でこれほどまでに雨が止まないでほしいと願ったことはあっただろうか。

初デートの夜、彼は改めてわたしに好きだと伝えてくれた。わたしも好きを伝えた。この日、わたし達は正式にお付き合いを始めた。

彼と付き合い始めて数年。今でもあの初デートは鮮明に思い出せる。


いつまでも降り止まない、雨
いつまでも降り止むな、雨

5/25/2023, 10:49:04 AM

自分の心臓の音が聞こえる。息が上手く出来ない。視界が揺れる。

『...死ぬかも。』

わたしはとうとう高校には行けなくなってしまった。


朝から夕方まで学校で勉強。それから部活。家に帰ると課題に追われる。定期テストなんかにも全力で取り組んで、今思えばすごく忙しい日々だった。でもそれがなによりも楽しかった。それなりに友達もいて、わたしの人生の中でもかなり充実していた時期だったと言えるだろう。

高校2年生の冬のこと。ひょんな事から頻繁にパニックを起こすようになってしまった。しかも初めてパニックを起こしたのは教室だった。鼓動が早くなるのを感じ、呼吸が乱れ、視界が揺れる。誰かが話しかけてくれても何も入ってこない。怖い。怖い。怖い。
精神科で病名までついてしまった。精神病患者になってしまったのだ。

それでも薬を飲みながら無理やりにでもどうにか学校に行き続けた。“不安”だったからだ。
自分で言うのもおかしな話だが、わたしの成績は優秀な方だったと思う。毎日帰宅後もかなりの時間を勉強に費やし、テスト前は1日10時間以上の勉強が当たり前だった。人より努力しているという自負があった。2年生の三者面談で先生に『このままの成績がキープ出来ればあなたの目指す学部のある○○大学の推薦をあげられるかもしれない』とも言われていた。それなのにこんなよく分からない病気のせいで人生を棒に振りたくない。夢を諦めたくない。その一心だった。

しかし薬を飲む量は日に日に増えていった。精神科ではカウンセラーに大泣きしながら話した。『わたしは大学進学を諦めたくない。』『みんなと同じように生活したい。』『“普通”に戻りたい。』『なんでわたしがこんな目に。』

頑張れば頑張るほどわたしの症状は悪化していった。友達も腫れ物扱いしてきているのを感じた。腫れ物扱いとはいえそんな状態のわたしと関わってくれていたのは友達の優しさなのは頭では分かっていたけれど、どうしても辛かった。

わたしはとうとう高校には行けなくなってしまった。

高校どころか外に出るのさえ怖くなった。俗に言う引きこもりになってしまった。人生が終わってしまったように感じた。こんなはずじゃなかったのにって。

当時のわたしは視野が狭かった。高校に行って、いい大学に行って、夢だった職に就く。これだけがわたしの人生における正しい道で、その他は外れた道だと思い込んでいた。周りの人間が『大学は今じゃなくても入学できる』とか、『病状が落ち着いたら進学じゃなくて就職を考えてもいいんじゃない?』とか言ってくるのに対して、無責任だなとしか思えなかった。
人生の道を外れてしまったわたしはいっそ死んだ方がマシだとまで思った。その気持ちは誰にも話せず苦しかった。



あの頃の不安だったわたしへ。
確かにわたしは当時描いていた人生設計とはかなり離れた人生を送ってる。でも、決してこれは不幸せな人生ではない。周りの人と違うからって、それが必ずしも悪というわけではない。
今のわたしはあの頃不安だったわたしのおかげで強く生きられています。

生きていてくれてありがとう。