白色

Open App

私は生前、何をやっても上手くいかないと感じる時期があった。毎日生きるのが辛かった。他の人に話しても『そんなことで』と一蹴されるのが怖くて1人で抱え込むしかなかった。その時の一瞬の気の迷いだったかもしれないとも思うが、変な行動力を発揮してしまい、自殺した。

死んだはずなのに目が覚めた。私が死んでどのくらい経ったのかは分からない。でも目を開けた瞬間にここが死後の世界であることはすぐ分かった。天国だの地獄だの、そんな話は完全にファンタジーだと思っていた私はかなり目を疑った。列ができていてその先に鬼...?いや多分閻魔大王ってやつだろう、アニメで見た事ある。思ったより大きくて顔が怖い。この距離じゃさすがに何を言っているかは分からないが、列から1人ずつ閻魔大王の前に立ち、閻魔大王はその人たちを右や左に次々と振り分けていく。振り分けられた人達は不思議な円の上に立つ。すると一瞬で姿が消えるのだ。恐らく天国と地獄に振り分けられて、ワープホールみたいなもので飛ばされているのではなかろうか。生前居た世界では考えられないことだが、1回死んでいるのもあってかなんかあっさり飲み込めた。とりあえず並んでみるか。

並んでみると意外と待ち時間が長かった。私はどっちに振り分けられるのか、ソワソワする。でも正直分かりきっていた。私の行先なんて地獄に決まっている。ストレスに耐えかねて自傷行為がエスカレートしていったとき『親から貰った体を大切にしないなんて〜〜』とか、『もう少し頑張ってみたらきっと報われるよ』とか色々言われた。全く刺さらなかった。当事者以外からは自傷行為なんて親から貰った体を傷つける行為にしか見えないらしいし、私みたいなやつの気持ちなんて絶対に分からないのだ。ああなんか憂鬱になってきた。

ついに私の順番。怖い顔の閻魔大王が鋭い目付きでこちらを見る。



『お前は...天国行きだ!』



え...?聞き間違い?案内人のような人が来て天国行きのワープホールへ案内しようとする。



「ちょ、ちょっと待ってください!なんでですか?」



閻魔大王も少し驚いていた気がする。後から聞いたことだが、地獄行きの人間が理由を問うことはあっても、天国行きの人間が理由を問うことはあまりない事だそうだ。



『...お前は生前大罪を犯したわけではないだろう』


「私は自殺しました。親から貰った体を傷つけもしました。頑張れませんでした。」




言いながら涙が出てきた。取り返しのつかないとんでもない事をしてしまった自覚が湧いてきた。死んだことを後悔はしているわけではないが周りの人間は私を愚か者だと言うだろう。



『確かにお前の体は親から貰った体だったかもしれないが、貰った時点でお前の体だろう。そしてその傷や跡は自分を傷つけてまで必死に生きようとした証なのでは無いか?頑張れなかった?頑張っていない人間は死にたいとは思わないし、そういう奴に限って無責任にもっと頑張れなんて言葉をかけるものだ。』



言葉を失った。こんなにも生前の私の気持ちを分かってくれるなんて。閻魔大王はすぐに次の人間を振り分け始めた。それに伴って私は案内人に天国へのワープホールに連れていかれた。





初めて誰かに認められた気がして本当に嬉しかった。ずっと私はあの閻魔大王の言葉を忘れられないし、何度も思い返すだろう。







天国と地獄

5/28/2023, 9:40:25 AM