「この世は不条理なり!!
それでもおのれの信じた道を突き進むだけよ!!」
そう言って彼は豪快に笑った。
それが彼の最期の言葉だった。
それは彼の粛正が決まったその時の。
見事な散り際の一言であった。
周りから見たら彼が道理から外れたように見えたろう。
身勝手に振る舞い傍若無人のように見えたろう。
でも私だけが知っている。
彼が本当は優しいひとなのだと。
この世を正しくしようと奮闘してたこと。
幼い頃から側で共に戦って来たからこそ分かるのだ。
どんなに周りから恐れられようと蔑まれようと彼には譲れない信念があった。
それは時には非道な行為でもあっただろう。
ただ単に好き勝手に振る舞ってるように見えただろう。
だけどそれもこれも全部意味あってのことだったのだ。
誰かがやらねばいけぬ事だったのだ。
それを彼は嫌な顔もせず笑ってそれをやり遂げたのだ。
たとえその結果、粛正されることになってしまったとしても。
彼の真意なんて誰にも伝わらぬまま笑って先に逝ってしまった。
「ほんにこの世は不条理なり」
彼の真似をして誰も居ぬ暗闇にそっと呟く。
「…不条理なり」
(不条理)
おれがオトコだからダメだって言ったじゃないか。
それを今さら「君が気になる」なんて。
そんなの。
ずるいじゃないか。
アンタの前でなんか泣きたくないのに。
「気持ちの整理が出来るまで待っていて」なんて。
そんなの、
まだアンタのこと忘れられないおれに、散々酷いことをして来たアンタが言うなんて。
ずるいじゃないか。
目の前の男に勝手に溢れ出る涙を見られたくなくて必死で目元を押さえた。
こんな状況でも嬉しいと思える自分がいることが滑稽で堪らなかった。
✨(泣かないよ)
「なんでおれとお前が手を繋がないといけない訳??」
前をさくさくと歩く彼は不満を口にした。
暗闇の森のなかふたり仲良く手を繋いで散歩中、なんてことはなく誰が言い出したか肝試しをしようということになって2人1組になった彼と僕。
暗闇が怖いと、お化けが怖いと言って手を繋いで貰ってると言うのが今の現状。
「ほんとお化けは無理なんだって!!」
「だったら参加なんかしなければいいだろう」
文句は言うけどしっかり手を繋いで歩いてくれる彼の優しさが僕は好きだ。
「そうなんだけど君が行くなら僕も行かなきゃって思って」
「何だそれ」
だって僕は君がほんとは怖がりなのを知っている。
そしてそれを隠したいことも。
彼は後ろを振り向かず一心不乱に前を目指してしっかりと僕の手を握って歩いていく。
「絶対に置いていかないでよ。手を離さないでね」
「分かってるってうるさいな」
本当は怖いのに僕のために頑張ってくれる君。
怖さを我慢するように力強く僕の手を握りしめているそれをしっかり握り返して微笑む。
僕はね、別にお化けなんて全然怖くないんだ。
(怖がり)
幾重にも幾重にも降り積もったあの人への想いは。
はらはらと流れるようにこぼれ落ちた。
あの人と一緒にいる時は輝いて見えたそれは、時間が経つにつれ眩しすぎるように思えた。
いまでは純粋に見上げることもしんどくなった。
少しずつ少しずつ受け止められなくなったその想いはおれの中からこぼれ落ちていった。
落ちていったその想いは誰にも気付かれずそのまま消えてしまえばいい。
本当に、消えてなくなれお願いだから。
じゃないと苦しくて立ってられない。
(星が溢れる)
長く長く思っていたその男に、居ても立っても居られなくて衝動的に想いを告げてそしてこっぴどく振られたのが数ヶ月まえ。
どんなに忘れたくても忘れられない。
どんなに消したくても消えない。
大した男でもない。冴えない卑怯な奴だと。
意識に刷り込んでここ数ヶ月思い出す暇もないようにがむしゃらに働いて働いて身体もココロも極限まで追い込んで意識の外に追い出してるのに、寝る前のまぶたを閉じるその瞬間には必ず浮かんでくる憎らしい顔。
もう好きじゃない、あんな奴のことなんてちっとも好きじゃない。
好きじゃないのに、
どうしておれの中から消えてくれないんだ…。
会わないように耳にしないように気を張っていたのに、アイツに新しい彼女が出来たと同僚から聞いた。
そいつにとってはただの世間話に過ぎないその話題は、おれにとっては地雷だった。
その話を聞いたとき冷静に対処していたと思う。
笑えてたと思う。
こいつは何も悪気はない何も知らないんだだからしょうがないんだ。
だけどおれはひそかに震える手をバレないように握りしめていた。
世界が揺らいで見えた。足元がぐらついた。
必死に耐えていた。
何を期待していたんだろう。
世界がひっくり返ってもおれの元に来るなんてことはないのに。
頻繁にやり取りしてたメールのやり取りに電話。
あれからは鳴ることの無くなったスマホ。
着信があれば咄嗟に名前を確認しては勝手に落胆する。
そんな自分が嫌だった。
切り離してしまいたかった何もかも。
滑稽な自分に笑いが込み上げてくる。
寝転んでいるベッドの上でひとり小さく笑い天井を見上げる。
見渡すすべてが色褪せて見えた。
色が消えたその世界に目を閉じて眠りにつく。
もう何もかもどうでもよかった。
この痛む心も渦巻く黒い感情もまだ彼を忘れられない自分も。
もう何もかもどうでもいい。
どうでもいいんだ。
(安らかな瞳)