おれがオトコだからダメだって言ったじゃないか。
それを今さら「君が気になる」なんて。
そんなの。
ずるいじゃないか。
アンタの前でなんか泣きたくないのに。
「気持ちの整理が出来るまで待っていて」なんて。
そんなの、
まだアンタのこと忘れられないおれに、散々酷いことをして来たアンタが言うなんて。
ずるいじゃないか。
目の前の男に勝手に溢れ出る涙を見られたくなくて必死で目元を押さえた。
こんな状況でも嬉しいと思える自分がいることが滑稽で堪らなかった。
✨(泣かないよ)
「なんでおれとお前が手を繋がないといけない訳??」
前をさくさくと歩く彼は不満を口にした。
暗闇の森のなかふたり仲良く手を繋いで散歩中、なんてことはなく誰が言い出したか肝試しをしようということになって2人1組になった彼と僕。
暗闇が怖いと、お化けが怖いと言って手を繋いで貰ってると言うのが今の現状。
「ほんとお化けは無理なんだって!!」
「だったら参加なんかしなければいいだろう」
文句は言うけどしっかり手を繋いで歩いてくれる彼の優しさが僕は好きだ。
「そうなんだけど君が行くなら僕も行かなきゃって思って」
「何だそれ」
だって僕は君がほんとは怖がりなのを知っている。
そしてそれを隠したいことも。
彼は後ろを振り向かず一心不乱に前を目指してしっかりと僕の手を握って歩いていく。
「絶対に置いていかないでよ。手を離さないでね」
「分かってるってうるさいな」
本当は怖いのに僕のために頑張ってくれる君。
怖さを我慢するように力強く僕の手を握りしめているそれをしっかり握り返して微笑む。
僕はね、別にお化けなんて全然怖くないんだ。
(怖がり)
幾重にも幾重にも降り積もったあの人への想いは。
はらはらと流れるようにこぼれ落ちた。
あの人と一緒にいる時は輝いて見えたそれは、時間が経つにつれ眩しすぎるように思えた。
いまでは純粋に見上げることもしんどくなった。
少しずつ少しずつ受け止められなくなったその想いはおれの中からこぼれ落ちていった。
落ちていったその想いは誰にも気付かれずそのまま消えてしまえばいい。
本当に、消えてなくなれお願いだから。
じゃないと苦しくて立ってられない。
(星が溢れる)
長く長く思っていたその男に、居ても立っても居られなくて衝動的に想いを告げてそしてこっぴどく振られたのが数ヶ月まえ。
どんなに忘れたくても忘れられない。
どんなに消したくても消えない。
大した男でもない。冴えない卑怯な奴だと。
意識に刷り込んでここ数ヶ月思い出す暇もないようにがむしゃらに働いて働いて身体もココロも極限まで追い込んで意識の外に追い出してるのに、寝る前のまぶたを閉じるその瞬間には必ず浮かんでくる憎らしい顔。
もう好きじゃない、あんな奴のことなんてちっとも好きじゃない。
好きじゃないのに、
どうしておれの中から消えてくれないんだ…。
会わないように耳にしないように気を張っていたのに、アイツに新しい彼女が出来たと同僚から聞いた。
そいつにとってはただの世間話に過ぎないその話題は、おれにとっては地雷だった。
その話を聞いたとき冷静に対処していたと思う。
笑えてたと思う。
こいつは何も悪気はない何も知らないんだだからしょうがないんだ。
だけどおれはひそかに震える手をバレないように握りしめていた。
世界が揺らいで見えた。足元がぐらついた。
必死に耐えていた。
何を期待していたんだろう。
世界がひっくり返ってもおれの元に来るなんてことはないのに。
頻繁にやり取りしてたメールのやり取りに電話。
あれからは鳴ることの無くなったスマホ。
着信があれば咄嗟に名前を確認しては勝手に落胆する。
そんな自分が嫌だった。
切り離してしまいたかった何もかも。
滑稽な自分に笑いが込み上げてくる。
寝転んでいるベッドの上でひとり小さく笑い天井を見上げる。
見渡すすべてが色褪せて見えた。
色が消えたその世界に目を閉じて眠りにつく。
もう何もかもどうでもよかった。
この痛む心も渦巻く黒い感情もまだ彼を忘れられない自分も。
もう何もかもどうでもいい。
どうでもいいんだ。
(安らかな瞳)
どうしてずっと隣りに居れると思ってたんだろう。
どうして気持ちは変わらないと思い込んでいたのだろう。
どうしておれは…。
「きみは男だから」
目の前の男は視線を足もとに落としたまま誰に言うでもなくポツリとそう言った。
この人はおれの人間性が好きだと言ってくれた。
好きになる人は姿形には拘らないと以前話したときに言っていた。
何よりふたりで居るときの空気がおれは好きだった。
だから大丈夫だと思った。
いま思うとどこから来たのか分からないその自信を持って。
溢れ出して止まらないこの想いを思い切って言葉にした。
笑って受け止めてくれると思い込んでいたおれに突きつけられたのは拒絶だった。
「何かの冗談でしょう?」
ぎこちなく笑って視線を外す。
こんなこと冗談で言えるはずないじゃないか。
そんな雑な感情ではない。
彼の態度に失敗したと思った。
言わなきゃよかったと思った。
「そ…だよ。びっくりした?」
何とか笑って絞り出したその声は震えてなかっただろうか。
貼り付けた笑顔は歪んでいなかっただろうか。
その答えに目の前の男は、顔は未だ俯いてよく見えないもののあからさまにホッとしてる様子が見てとれた。
「驚かさないでください。びっくりしたじゃないですか」
少し笑って視線をおれの方に向けた。
そんな分かりやすく安心するなよと胸の奥に怒りが湧いてくる。
合わさっていた彼との視線を今度はおれが俯き加減に逸らす。
「そっちがウソだけどね」
その言葉に彼がまた動揺したような気配があった。
もう自暴自棄になってたのかもしれない。
どうなってもいいと思った。
一歩また一歩、彼の方に近付くと警戒したように身構えられる。
「そんなに警戒しないでよ」
表面上は笑っているのに泣きたくてたまらない。
「あんたのことが好きなんだ」
また一歩さらに彼の方へ近付く。
彼は固まったまま地面の方ばかり見て黙ったままだ。
そんな姿に腹が立つ。
「なんか言ってよ」
「僕たちは男同士で…そんなのありえない」
「あんたは姿形には拘らないと言ってたじゃないか」
「それでも男同士とは思いもよらなかった」
ポツリと消え入るような声で答える。
「だったら、おれがオンナだったらよかったの?」
近付いてその頬に手を添えると怯えるように身体が震えた。
逃がさないように視線を追いかける。
「オンナだったら付き合ってくれたの?」
言葉の勢いでそのまま彼のくちびるにそっと自分のそれを合わせた。
その瞬間に強い力で剥がされた。
心臓を鷲掴みにされたようだ。
痛くて堪らない。
どうしたらいいんだろう。
もう進むことも引くことも出来ない。
分かっているのはもう取り返しのつかないってことだった。
口に出してしまったら最後だなんてよく言ったものだ。
ただただずっと隣りに居たかっただけなのに。
それだけでよかったのに。
それ以上を求めてしまったのがそんなにいけなかったのか。
いまはただ一秒でも早くここから消えてしまいたかった。
(ずっと隣で)
何か違う。短くまとめるの難しい。