放っておくとどこまでも1人で無理をし続けるアイツ。
ここ連日また他のやつの尻拭いで遅くまで残っている。
今日もまた1人で暗くなった部屋で1人パソコンに向かっている。
開け放たれたドアに気持ちばかりのノックをしてそのまま側まで歩み寄る。
多少の物音には気付きもしない。
デスクに向かうアイツに影を作って話し掛ける。
「またお前1人でやってるのか?他のやつは?」
軽く周りを見渡せどやはり誰も居ない。
「みんな用事あるし」
パソコンを見つめたまま、
「何より、俺がやった方が早いよ」
一拍間を開けて言った。
「でもそれはお前の仕事ではないだろう?」
「誰の仕事でも同じだよ」
やはり自分の仕事ではないらしい。
返事は返ってくるが目線はずっと正面を見続けている。
室内にはキーボードを弾く音とその横の資料をめくる音だけが鳴り響いている。
「お前だけがそんなに頑張らなくてもいいんじゃないのか」
横目でちらりと覗いたその横顔の目の下のクマがより一層濃くなってる気がする。
「そのうち過労で倒れるぞ」
「自分の体は自分で分かってるから大丈夫」
何を言ってもその姿勢は変わらない。
仕事が終わらなくても死なないのに。
もっと周りを頼ればもっと上手く生きれるのに。
コイツは本当に不器用過ぎる。
軽くため息を吐く。
「ご飯は食べたのか?」
「今日も元気に10秒チャージだよ。楽でいい」
本気でコイツは…。
手に下げてた袋からおにぎりを取り出してビニールを剥ぎ取って問答無用で口に差し出す。
「もういいからとりあえずこれ食え。資料寄越せよ、俺が手伝ってやる」
「別にいいのに」
非難めいた言葉を投げたが素直におにぎりを手に取って食べ始める。
お腹は空いてるのだな。
だったらちゃんと食事らしい食事をしろよ。
とは思うのだが、あえて口には出さない。
静かに食べ始めたのを見守る。
そしてコーヒーも差し出す。
それも素直に受け取った。
「まだおにぎりもサンドウィッチもあるからな、好きなだけ食え」
残りの袋を横に置いた。
「ありあとー」
口に含んだまま喋るな。
「で、資料はどこにある?」
よこせと言わんばかりに隣に座りパソコンのスイッチを入れる。
おにぎりを口に入れつつまた画面に視線を定めたままで資料をこちらに渡してくる。
「お前ヒマなの?わざわざ毎日俺んとこに来るなんて」
その間抜けな質問に怒りさえ湧いてくる。
「暇じゃねぇよ」
ふぅんと曖昧な相槌を打ってまた仕事に戻った。
もうたぶん俺の声は聞こえなくなってるだろう。
「お前に少しでも俺の気持ちが伝わればいいのにな」
ため息と共にその声は消えてなくなった。
(あなたに届けたい)
びーえるではないけど…?
俺らは過剰に戯れて周りを刺激する。
「おー何してたんだよ。遅いじゃん」
遅れて来た友人に片手をあげて挨拶する。
「センコーに捕まってた。呼び出し」
「おまえ何したんだよ」
笑いながら自分の方へ手招きして近寄って来た友人を片膝に座らせ後ろから抱き抱える。
その瞬間周りを取り囲んでた同級生から一際大きい歓声が湧く。
それをそのまま流して話し続ける俺ら。
もう慣れたもんだ。
今日も相変わらず過剰なスキンシップでギャラリーにサービスする。
「ねみぃ」
そう言って前にいるうなじに頭をすり付ける。
「眠いなら帰って寝ろよ」
「そうなんだけどさー…おまえも一緒に寝る?」
「お前のベット狭いもん。やだよ」
会話してる間にも周りの女子たちがわぁきゃあ言ってる声がする。
「いいじゃん別に。寒いしさー」
「よくない。おまえ寝相悪いし最悪」
「ひどっ」
抗議するように首筋にさらに頭を押し付ける。
「おいやめろよくすぐってぇ」
ガシッと結構容赦なく頭を掴まれた。
動きを封じ込められた俺はそのまま首筋に顔を埋めて匂いを嗅ぐ。
それまでも鳴り止まなかった歓声に一瞬悲鳴のような声が上がる。
女子、好きだねーこーいうの。
横目でちらりとギャラリーを一瞥して視線を首筋に戻す。
「おまえ今日いい匂いする。香水付けた?」
「何も付けてないよ。シャンプーじゃねぇ?」
「すげぇいい匂い」
「お前と一緒のやつだよ」
そう言って鷲掴んだ俺の頭を引き寄せて匂いを嗅がれた。
また一層ギャラリーが沸いた。
「お前ら…イチャつくなら帰ってやれ」
見かねて横から呆れたように声を掛けられる。
よくつるむコイツはもう慣れたものだ。
周りの声がうるさいのか手でシッシッと払う仕草をされる。
「なにお前も仲間に入る?」
「入らん」
そんな即答しなくても。
容赦なく切り捨てられてしまった。
「でもまぁ。そろそろ帰ろっか」
横のそいつに笑って返して。
頭に乗せられた手を外して最後のサービス。
前のコイツの手の甲にキスをする。
また周りからの悲鳴。
「あ、お前汚いだろ何してんだよ」
そう言って人の制服で拭かれた。
ひどくない?
ちょっと拗ねたふりしてうなじにキスしてやった。
「あーお前…っ」
少し赤くなった首筋を手で押さえて非難される。
「お前らよくやるな…」
さらに隣から呆れた声がする。
毎日毎日飽きずに俺らは過剰に戯れて周りを刺激する。
何でこうなったんだっけな。
何が始まりだったっけな。
もう忘れた。
周りが喜ぶからまぁいいか。
アイツも最初は嫌がる素振り見せてたけど今では慣れたのか動じなくなった。
俺の過剰なスキンシップも文句言いながらも受け入れてくれる。
俺もコイツと戯れるのは嫌いじゃない。
むしろ楽しくて好きだ。
「お前ら付き合ってんのか?」
冗談まじりに、時に飽きられながらも聞かれるけど。
この戯れの延長線上に何があるって言うんだ。
愛とはなんだ…。
ひとつ言えるのは、ただ一緒に居てすこぶる楽しいと言うことそれだけ。
(I LOVE...)
「やっと来たか!遅かったな」
奇怪な風貌のキャラクターが俺に話しかける。
「お前…街に行こうって、ゲームかよ」
負けず劣らず自分も性別不明な見掛けのアバターで答える。
学校が終わって帰り際に突然「今日の夜に街に行こう!21時に集合な!お風呂もちゃんと済ませて来いよ」と言われたから何かと思えばこれである。
「だってよーこんな田舎でそんな夜遅くに出掛けたら怒られるべ?」
「だったら最初からゲームしよって誘えよ」
紛らわしい。
目の前の奇怪なアバターがポリポリと頭を掻く。
「それだと面白みないやん」
「紛らわし過ぎるんだよ」
「まぁまぁそんなことより俺と一緒に冒険しようぜー」
「冒険ってお前…」
このゲームは自分の分身で普通に生活するほのぼの育成ゲームである。
冒険要素なんてない。
「何すんだよ」
「浜辺でも走りに行く?」
「何のために?」
「せいしゅん?」
「ゲームのなかで?」
「そう」
「そういうのってリアルでやるからいいんじゃないの?」
「冬に海は寒いやん?」
「いやいやいや」
「まぁ何でもいいんだけどさ。単にお前と遊びたかっただけだから意味とか求めんなよ」
「じゃあ、今から何すんの?」
「何しよっか?」
画面越しに脳天気に笑うアイツの顔が見える気がする。
「普通に学校で喋ってる時と何ら変わんないやん」
目の前に居ない相手に笑いかけてしまう。
「それもまた醍醐味よ」
「何の自信だよ」
相変わらず意味が分からない。
「まぁ…な!でも今度リアルでも遊びに行こうな!」
「本当の街にな!」
皮肉を込めて答える。
俺のアバターが満面の笑みで会釈した。
(街へ)
あの人には彼女が居てあたしには彼氏がいる。
それでも何かと頻繁に顔を合わせて一緒にいる。
一緒にいると楽しくて楽しくてそして淋しい。
離れたくなくてでも離れたくて一生戯れていたくて。
戯れて痛くて。
楽しすぎるとダメなんだ。
過ぎるのはダメなんだ。
お互いに気持ちは口に出さない。
視線は意味ありげに交差して。
でも決して言葉にはなり得ないこの感情を。
探り合って、探り合って。
そして目を逸らす。
離れたくないんだよ。
本音は言ってしまったらすごく単純で。
でも多分言ってしまったら最悪で。
過ぎるから壊れてしまう。
彼が踏み込んで来ないのは優しさであり、ずるさでもある。
今回もまた。
あたしの好きな人はあたしのことを好きにならない。
(優しさ)
時計の針がてっぺんでぴったり合わさって今日も1日の終わりを告げる。
よい日でも悪くても普通でもここで一旦リセットだ。
また新しい日をたゆまなく歩かなければならない。
いや、ゆるく生きてもいいか。
だって人生は長くて退屈で、そして窮屈だ。
同じことを繰り返し生きていく。
怠惰に生きる。
そしてたまに一生懸命になってみる。
一生懸命はかっこ悪い。
でもそれはとてもかっこよい。
頑張ってるはとても心地よい。
ふと職場の同僚を思い出す。
彼はいつも一生懸命だ。
めんどくさがりの僕とは違って、いつも一生懸命生きてる。
ときに羨ましいとさえ思う。
共に一生懸命生きたいとも思う時もある。
でもそれは心に溜めるだけで口にすることはない。
一生懸命な彼をいつも見守るだけである。
そしてまた1日が終わり、リセットされる。
僕はその、1日の終わる瞬間にやはり彼を思い出す。
彼を思い、今日を振り返る。
そして眠りにつくのだ。
また同じ1日を迎えるために。
(ミッドナイト)