あの人には彼女が居てあたしには彼氏がいる。
それでも何かと頻繁に顔を合わせて一緒にいる。
一緒にいると楽しくて楽しくてそして淋しい。
離れたくなくてでも離れたくて一生戯れていたくて。
戯れて痛くて。
楽しすぎるとダメなんだ。
過ぎるのはダメなんだ。
お互いに気持ちは口に出さない。
視線は意味ありげに交差して。
でも決して言葉にはなり得ないこの感情を。
探り合って、探り合って。
そして目を逸らす。
離れたくないんだよ。
本音は言ってしまったらすごく単純で。
でも多分言ってしまったら最悪で。
過ぎるから壊れてしまう。
彼が踏み込んで来ないのは優しさであり、ずるさでもある。
今回もまた。
あたしの好きな人はあたしのことを好きにならない。
(優しさ)
時計の針がてっぺんでぴったり合わさって今日も1日の終わりを告げる。
よい日でも悪くても普通でもここで一旦リセットだ。
また新しい日をたゆまなく歩かなければならない。
いや、ゆるく生きてもいいか。
だって人生は長くて退屈で、そして窮屈だ。
同じことを繰り返し生きていく。
怠惰に生きる。
そしてたまに一生懸命になってみる。
一生懸命はかっこ悪い。
でもそれはとてもかっこよい。
頑張ってるはとても心地よい。
ふと職場の同僚を思い出す。
彼はいつも一生懸命だ。
めんどくさがりの僕とは違って、いつも一生懸命生きてる。
ときに羨ましいとさえ思う。
共に一生懸命生きたいとも思う時もある。
でもそれは心に溜めるだけで口にすることはない。
一生懸命な彼をいつも見守るだけである。
そしてまた1日が終わり、リセットされる。
僕はその、1日の終わる瞬間にやはり彼を思い出す。
彼を思い、今日を振り返る。
そして眠りにつくのだ。
また同じ1日を迎えるために。
(ミッドナイト)
びーえる注意報!
「こんな寒い日でも花壇の世話してるの?」
上の方から声がした。
見上げても太陽に被さるように立ってるので顔は分からない。
だけどいつも僕が花を弄ってると毎回現れるので誰かは確認しなくても分かる。
「今日は暖かいから土いじりにはもってこいなんだよ」
「毎日毎日花と戯れて飽きない?」
相変わらず表情は分からないまま首を傾げる。
「君も毎日毎日現れて飽きないの?他の人みたくボール追っかけたりして遊んだら?」
彼は毎日何をするでもなく現れては側にいる。
「んー別にいいや。俺はここに居る方が楽しいし」
そんな訳はないだろう。
土いじりしてる男を見て楽しいところなんて微塵も見つけられない。
「なんで?」
ずっと思ってたけど口にした事なかった疑問を投げかけた。
彼を見上げると相変わらずよく表情が分からないままだ。
「好きだからかな」
しばらくの沈黙の後、彼はひと言そう答えた。
かろうじて口の動きだけが見ることが出来る。
言われた言葉が理解出来なくてそのまま見上げてると、困ったように笑ったような気がした。
(逆光)
お風呂も入ったし歯磨きもした。
あとは布団に入って眠るだけ。
颯爽と布団に潜り込みラジオ配信のチャンネルを合わせる。
もう少し、あと少しだね。
始まるまであと5分とちょっと。
待ちきれなくてそわそわする。
前番組から耳を澄ましてワクワクしながら始まりを待つ。
何だろ、ラジオ待つって久しぶりかも。
最近は動画やら配信なんていつでもどこでも見れるようになった。
リアタイでラジオって中々ないかも。
でも今回は特別!
俺の推しがあの有名なラジオに出るらしい。
それを知ってからこの日をすごく楽しみにしてたんだ。
もう日付けも変わると言うのに全然眠くならない。
むしろ目が冴えるばかり。
今日ばかりは時計の針も進むのが遅い。
じりじり待ってるとあの有名なイントロが流れてくる。
「やぁ!みんなげんき〜?」
来た!!待ちわびたその声。
「スンスン!!!」
思わずスマホを握りしめて大声を出してしまう。
可愛い可愛い可愛い。
癒されるー。
俺の推し!!
「あのねーあのねー」
可愛い声がスマホから聴こえる。
「みんなのふわぁっ♪な瞬間教えてくれるー?」
いまがまさにその瞬間だよ!!
スンスンスンスンよかったねー。
すごいよラジオなんて。
こんなに声が聞けて嬉しい。
今日は君にとっても俺にとっても特別な夜。
そっと目をとじて君の声に耳を澄ます。
穏やかでちょっと間の抜けた可愛い声が耳に心地いい。
また聴けるといいな。聴けるよね?
だってスンスンだもん。
自然に顔がゆるんで身体の力も抜ける。
きみは俺に元気をくれる。
自慢の推しだよ。
また明日もがんばるね。
(特別な夜)
スンスンANNおめでとう!!
今から楽しみ♪♪
放送前なのに放送してしまったかのような話し(笑)
「団長、旦那さま帰って来られましたよ」
そう声を掛けられて急いで玄関に向かう。
彼は仕事の関係で遠方に出掛けてた。
毎日通ってた訪問がないのはやっぱり物足りなさがある。
急いだその先に見慣れたその笑顔。
玄関先で彼はいつものようにそこに居て。
「なんだそんなに急いで出迎えてくれて。そんなに俺に会いたかったのか?」
にやりと笑いかけてくる。
そんな彼の脇をすり抜けて彼の乗って来た車の荷台の周りをくるくる見て回る。
「何かお土産ないですか?」
「このヤロ!久しぶりに会った友よりお土産とはひどい奴だ」
怒った調子で腕を振り上げて殴る真似をする。
それをひょいと避けて荷台を覗き込む。
「ちゃんと買って来たから落ち着け」
「君の好きな塊肉もあるぞ」
旦那の方を見ると穏やかにこちらを見て笑っていた。
久しぶりだなこの笑顔。
やはりこの顔を見ないと落ち着かない。
「旦那。無事に帰って来れて何よりです」
手を差し出して笑顔でそう返すと
「憎たらしいな。俺より土産の方が魅力的なのか君は!」
ひょいと肉をわたしの方から遠ざける。
笑ってはいるけど少し拗ねた様子にも見えた。
「そんな事ないけど肉は美味しい」
にこりと笑い返す。
旦那は苦笑いをして見つめ返して来た。
「まぁいいさ。たくさん食べてくれ。みんなの分も買って来たぞ。運び込んでくれ」
荷台にはたくさんの食べ物や雑貨が載っていた。
その声を合図に団員が次々と家の中に運び込み出した。
それを避けて旦那と見守ってると、思い出したように旦那は車の中から何かを取り出した。
「これを君に」
目の前に差し出されたのは豪奢なかんざし。
「これは…?」
「露店で見かけたんだがお前に似合うと思ってな。機会があったら舞台でも付けてくれ」
そっとそれを受け取るとキラキラと光るそれをまじまじと見つめる。
「気に入らなかったか?」
心配そうに顔を覗かれる。
「いや…大事に使わせてもらうよ。ありがとう」
ぎゅっと手のひらの中に包み込む。
「それはそうと…中に入れてもらえないのかな?出先から急いでどこにも寄らずにここに来たのだが」
「あぁそうだな。我らが財神を招き入れてもてなさなくては!!」
「君は俺の懐しか興味ないのかい」
やんわり笑われる。
「俺の居ない間君は何してたんだ?聞かせてくれよ」
「俺が居なくてもちゃんとやってたか?」
やっぱり旦那の笑った顔は落ち着くな。
「旦那なんか居なくてもわたしの演技は完璧です」
この数日旦那に会えなくて寂しかったよ。
顔が見れて嬉しいよ。
言葉には出さないけど。
すごく会いたかったよ。
🍁(君に会いたくて)