びーえる注意報!
ゆらゆらと細く立ち昇る白い煙。
傍らに立つ男のきれいな指先の煙草から昇る。
それを欲しがると口許に持って来て吸わせてくれる。
彼と同じ匂いのするそれ。
肺に入れて吐き出すと白く空気が濁る。
自分たちの周りに同じ匂い。
俺に与えるとまた彼はそれを咥えて同じように白く空気を濁らせる。
俺たちだけの膜のようだ。
幾重にも幾重にも膜を張る。
目が合うとまた口許に持って来てくれる。
煙草は彼に教えてもらった。
ひっそりと俺らは煙草でキスを交わす。
今日も俺らは白く空気を濁らせるのだ。
(白い吐息)
今日も見上げる自分の部屋。
明るく灯りがついている。
そこで今日も出迎えてくれる顔を思い出して思わず笑顔になる。
今日もアイツは会いに来た。
思いがけず足取りも早くなる。
早く会いたい会いたい癒されたい。
もどかしくなってスマホを取り出す。
「なに今日も来てんだよ」
本当は嬉しい。急いで帰るね。
1秒でも早く会いたい。
(消えない灯り)
「わぁ。ちょっと見てよすっごい綺麗だよ」
「はいはい見た見た」
ライブ終わりに戻ったホテル。
眼下に広がる煌びやかな夜景に負けじと、目をキラキラさせて振り向く彼を適当にあしらってスマホをチェックする。
「なんかあんた、たまにおれを彼女みたいに扱うよね」
「なんでだよ」
少し間が空いて返ってきた唐突すぎるその台詞に思わず笑う。
「頼みすぎた食べもの食べてくれるし最終的にお願い聞いてくれるし蔑ろにするけど相手してくれるしまっすぐ目を見て話してくるし」
「最後の1行なんなん?」
突拍子のないこと言い出すのは今に始まった事ではない。
笑って返すと真面目に見つめられた。
「なんで?」
「夜景が綺麗とかそういう話やなかった?」
「いいから!」
はぐらかすと少し強めに言い返された。
「お前の時々重ための彼女みたいになるのなんなん?」
頬をちょっと膨らませて無言で見上げて来る。
そっとため息をついた。
まっすぐに、それでも柔らかく目が合う。
「そりゃあね、もう無くしたくないからね。メンバーを大事にしたいんですよー」
これも本音。
くしゃりと柔らかい髪を撫でる。
たくさん居たのにもう2人きりになってしまった俺らのグループ。
「もういいから外のきれいな夜景でも見てなー」
無理やり窓の外のきらきら光る夜景に向き直させる。
「あーそーかそーかーなるほどね」
目の前の、素直に夜景を眺める耳がほんのり赤い。
もう無くしたくない。
お前とふたり。
こんなきらきらした道だけを笑って歩んでいきたい。
窓の外はまぶしいくらいの無数の光が広がっていた。
👑(きらめく街並み)
「よしっこれでよし」
スマホのストップボタンを押す。
SNSにあげる動画の撮影を終えて確認、投稿。
2人の記念日に、ラブソングに意味ありげな振り付け。
アイツには伝わるはず。
でもちょっと抜けたとこがあるからなー。
スマホを取り上げ、メールを送信。
「動画見てくれたー?」
これは俺から秘密のメッセージ。
アイツに届け。
(秘密の手紙)
「あーあーあー」
「さっきから何やってるんだ」
「来ないんだよねー」
ずっと待ってるのに。
はぁと背後からため息が聞こえた。3階の窓から伸ばした指先に風が当たって感覚が鈍くなっている。
「そこ開けられてると寒いんだが」
今日何度目かの注意を受けた。
「ごみんねー」
だって来ないんだ。
俺だって寒いよ。
冷え切った空気に白い息を吐き出す。
「ったく何しに人のクラスまで…」
さらさらと白い紙の上を走るシャープペンの音と。
聴き慣れた少し低い声。もう慣れた。
「さっきから何を待ってるんだお前は」
「ん、いや、べっつに〜。そんな事より何やってんの?俺のこと構ってよー」
ちょっとだけ窓に未練を残しつつ側で机にかじりついてる男の腕の中をのぞく。
本人をきっかり表した整った文字がびっしり並んで。
「うっわーお前らしいっつーか日誌にここまでする必要ないんじゃないの〜」
「返せっ」
手にとって見てた日誌を奪われた。
「まっじめでちゅね〜」
まだかな。
「あー暇だねー」
早く。
「暇なのはお前だけだ」
「あ、そゆこと言いますかー」
「こんな時期に余裕ぶっこいてるのはお前ぐらいだろう」
探るような声音に。
「まぁーね!ワタクシの頭脳を持ってすればどんなとこも不可能はないですからねっ」
冗談めいて返した。
「随分な余裕だな」
「……そうでもないよ」
今度は聞こえるか聞こえないかぐらいの声で応えた。
首筋を通る風が冷たい。
「そういえばアイツはどうしたんだ?」
「しんろしどーしつ。先生からの呼び出し」
「…アイツはどうするんだ」
「何が?」
紙の上を走るシャープペンの音が聞こえない。手が止まってるよ?
もう冬の気配がする。
俺たちは否が応でも先を選択しなければならない。
その時が迫ってる。
アイツはどんな選択をするのだろう。
冷たい風が吹き抜けた。
空が低い。
もうすぐ冬がやってくる。
🐬(冬の足音)