「あーあーあー」
「さっきから何やってるんだ」
「来ないんだよねー」
ずっと待ってるのに。
はぁと背後からため息が聞こえた。3階の窓から伸ばした指先に風が当たって感覚が鈍くなっている。
「そこ開けられてると寒いんだが」
今日何度目かの注意を受けた。
「ごみんねー」
だって来ないんだ。
俺だって寒いよ。
冷え切った空気に白い息を吐き出す。
「ったく何しに人のクラスまで…」
さらさらと白い紙の上を走るシャープペンの音と。
聴き慣れた少し低い声。もう慣れた。
「さっきから何を待ってるんだお前は」
「ん、いや、べっつに〜。そんな事より何やってんの?俺のこと構ってよー」
ちょっとだけ窓に未練を残しつつ側で机にかじりついてる男の腕の中をのぞく。
本人をきっかり表した整った文字がびっしり並んで。
「うっわーお前らしいっつーか日誌にここまでする必要ないんじゃないの〜」
「返せっ」
手にとって見てた日誌を奪われた。
「まっじめでちゅね〜」
まだかな。
「あー暇だねー」
早く。
「暇なのはお前だけだ」
「あ、そゆこと言いますかー」
「こんな時期に余裕ぶっこいてるのはお前ぐらいだろう」
探るような声音に。
「まぁーね!ワタクシの頭脳を持ってすればどんなとこも不可能はないですからねっ」
冗談めいて返した。
「随分な余裕だな」
「……そうでもないよ」
今度は聞こえるか聞こえないかぐらいの声で応えた。
首筋を通る風が冷たい。
「そういえばアイツはどうしたんだ?」
「しんろしどーしつ。先生からの呼び出し」
「…アイツはどうするんだ」
「何が?」
紙の上を走るシャープペンの音が聞こえない。手が止まってるよ?
もう冬の気配がする。
俺たちは否が応でも先を選択しなければならない。
その時が迫ってる。
アイツはどんな選択をするのだろう。
冷たい風が吹き抜けた。
空が低い。
もうすぐ冬がやってくる。
🐬(冬の足音)
12/4/2025, 9:47:19 AM