「おーい。おーい」
随分と前からあたまを抱え込み悩んでる前方に声を掛ける。
「んー」とか「あれ?」とか1人で呟くだけで相手にしてくれない。
「ねぇ、聞いてる?」
めげずに声を掛けるけど。
「うるさいなー!!邪魔しないでくれる?」
一喝されてしまった。
「さっきから何してんの?」
ひょいと覗くと手元には何やらダイヤルらしきもの。
俺がいるの無視して「微妙なんだよなー絶妙なさじ加減…このちょっとがさー」なんてブツブツ。
ねぇねぇねぇ。
俺がいるんだからさー!
「相手してよーー!!!」と目の前の背中に寄り掛かれば。
絶叫に近い悲鳴。
「なにしてくれてんのさー!!!」
なになに?うるさいよ。なに?
口をぱくぱくさせながら手元のダイヤルを勢いよく指してくる。
だからさー。
「それって何なのよ?」
「もーう!!お前のせいで秋すっ飛ばして冬までダイヤル回しちゃったじゃん!!!」
「……え?それってなに。所謂季節をどーとかする何かってやつ??」
「そーだよ!!お前何やってくれてんのさ!!」
「あっつい暑い季節乗り越えた人間に少しでも過ごしやすい気温に設定してたのに一気に冬まで回しちゃったじゃん!!どーしてくれんの!!」
「ほんとにほんとに合わせるの大変なんだからね!!!」
次々に文句を浴びせられてもね、、、
「じゃあダイヤル戻しちゃえば?」
「そんな簡単なもんじゃねーよばかー!!」
「まぁまぁ冬もそんな悪いもんじゃないよ。好きだなーとか思ってるやつともくっ付けたりすんじゃん??」
自分よりひとつ分小さな頭を撫でる。
「そんな悪いもんでもねぇよ寒いのも」
乗せた手を払われながらその手でひらひらと追い払われる。
「じゃあ早くお前の力でくっ付け合わせてこいよ、北風小僧」
「任せろ。とびきりのぬくもりを届けてくるよ」
にやりと返した。
そんな悪いもんでもねぇのよ寒いのも。
温もりの愛しさを感じさせてやってんの。
(冬へ)
「あー最高楽しい気分いい」
ふらふらとほろ酔い気分で夜道を歩く。
今日の仕事も上手くいった。何事もなく楽しかった。その後のみんなとの飲み会もすごく楽しかった。今日も平和だった。
上機嫌で歩く帰り道。
ふと気付くといつもより明るいことに気付く。
「あー今日はすごい月がきれいじゃーん」
見上げると、空は澄み渡り明るい月の光が降りそそぐ。
「きれいだなー」
うんうん。ご機嫌にひとり呟きながらふと浮かんできた顔に笑みが浮かぶ。
「でも」
一緒に見たかったなー。
「無理だけど」
「あいたいよー……」
全然逢えない、恋しいひとの名を声に出さず呼ぶ。
「あいたい」
前に逢ったのはいつだろう。
まばゆい光りを仰ぎ見ながらふにゃりと笑う顔を思い出す。大好きな顔。
「本当にほんとにきれいだなぁ」
なんで横に居ないんだろ。
居れないのだろう。
こんなきれいな月も、
あなたが居ればもっと美しいのに。
そっとため息を吐く。
願わくば同じ月明かりのなかでいつか。きっと。
(君を照らす月)
(木漏れ日の跡)
もう少しでお話し降りて来そう。
でも間に合わないので居場所だけ。
あとで気まぐれにあげたい。
柔らかな光のなかでまどろむ君。
君の周りにはやさしくいつでも笑える世界が広がってるといい。
死ぬなよ。
最後に冗談混じりで交わしたその言葉。
恋人として情熱的に過ごした去年の夏。
演技ではあったけど、ずっと続けばいいと思ってた。願ってた。
四六時中そばに居て見下ろせばそこに笑った顔があって。
何度も交わした虚構のキス。戯れ。
それが本当であれと願う毎日。
終わりに近付くその日が怖くて偽るようにお互いに笑った。
日々に疲れて縋ってただけかもしれない。
役にのめり込んでただけかもしれない。
もう会えないかもしれない最後の夜。
「俺たち、付き合おう」
いつものノリで笑いながらの問いに。
「役に引きずられてるだけだよ」
目を伏せる君。
お互いに同じ気持ちでいると思ったのに自分だけが取り残された。
何かに怯えるように体を震わせながら耐えてる君に何も言えなくなった。
過去に辛い思いをしてその生を終わらせようとした事がある君。
「何かあったら連絡して」
もう側で見守ることは出来ないけど。
これだけは約束して。
「死ぬなよ」
ずっと見守ってる。好きなんだ。
(ささやかな約束)