彼らの素直さが欲しかった。どこまて入っても美しい、彼らの心が羨ましかった。
彼らは綺麗な声をしていた。彼らはいつも笑顔で明るくて。だからわたしもそれを真似た。
わたしはイルミネーションだ。表面に光を集め、その痛いほどの眩しさで周りを拒絶する。
目が丈夫だとか我慢強いだとかで、わたしに近づく人もいる。その人たちには、少し申し訳ない。きっと皆が思っているわたしではないから。
光が弱まったら。周りが明るくなりすぎたら。わたしはただの針金になる。
───イルミネーションは、彼らになりたかった。
題:イルミネーション
繋がっているのは、心と心なんていう不安定なものじゃなくて。
題:心と心
あなたの前では、何でもないふりをしたくない。わたしを全部解ってほしい、あなたを全部解りたい。
言いたくないことも言いたくて、知りたくないことも知りたくて。また今日も、何でもないフリをしながら素直になる。
題:何でもないフリ
むかーしむかし。あるところに、一つのかたまりがありました。
かたまりは、延びたり縮んだり、冷えたり温まったりしながら分裂してゆきました。
はじめは、元通り一つに固まろうとすれば、易く一つのかたまりに戻れたのですが、時が経つにつれ、分裂した小さなかたまり達が遠くへ飛んでいってしまうようになりました。一つになるのが難しくなってしまったのです。
一つのかたまりは一つのかたまりであることを忘れ、たくさんの小さな物質になりました。
今でも一つのかたまりは、小さくて多い個のままです。
そしてそれらは、一つのかたまりに戻ることを望みません。むしろ一つに固まることを悪だとみなします。一つのかたまりでなくなったこの世は、ひどく美しいようです。
題:仲間
柔らかい雨が降ってきた。わたしの好きな、激しく世界を打つ土砂降りには程遠い。
突然の雨だった。梅雨みたいにネチっこく、きみみたいに優しく降る。
地面が雨水の膜を張って、雨の優しさも靴底の弾力も受けとめていた。上の方では街灯が微睡んでいる。
わたしは傘を持っていないきみに、リュックの底から薄い折り畳み傘を差しだした。きみは鼻にかかったような声で、ありがと、と受け取り、二人の間で広げる。
はやりの音楽では、傘はいらないだの傘を捨ててだの歌っているが、確かにこの小さな傘ならあるもないもそう変わらない気がする。
肩幅の広いきみの左半身が、優しくて大きな雨に襲われていた。かく言うわたしも、制服のすそがじっとりと冷たくなっている。
それでもお互いの左手を繋いでまで傘に収まろうとするのは、やっぱり優しすぎる雨のせいなのだ。
題:手を繋いで