嫌な奴がいる。
初めは優しかった。俺が困っていたら、すぐに気づいてくれる、優しい奴だった。俺もそれに応えたくて、奴に好意を持った。
だが、奴は日を追う事にひねくれていったのだ。わざとなのか、単に余裕がなくなったのかは分からない。奴の感情の爆発に、俺はついていけなくなった。
いや、ついていけないというよりもむしろ、俺と奴は似ていたのだ。気分屋で、尊大で、世間知らずで。
だから俺は、奴が嫌いな訳ではない。ただただ、その言動が嫌なだけだ。最後の言葉はたぶん、ありがとう。
題:最後の声
「俺とお前は、対等でありたいから。奢りとか、やらなくていいって。」
出会った頃のこいつの台詞。
なぜか、ふと思い出した。
かく言う今、俺はその友達に昼食を奢っている最中である。
計1067円。冗談じゃねえ。
俺は、数点のパンやら菓子やらの入った袋をぶっきらぼうに差し出した。
「さんきゅ。」
笑顔で受け取りやがる。そして袋をガサガサし、無駄に綺麗な手でつまんだ、かつて5円だったチョコを差し出した。はいプレゼント、と。
ああ、そうか。これだ、この一口にも満たないようなチョコが、少年時代を想起させたのか。
「俺が買ったんだよ。」
どういうわけか、その1粒が嬉しかった。
題:遠い約束
いつもは花の匂いが苦手だけれど、
彼女からの花束には、七色の香りを見た。
題:七色
もう二度と君を傷つけないと決めてから、また傷つけるのをもう二度としない。
そう決めてから君を悲しませてしまったときの沈黙は、もう二度と思い出せない。
題:もう二度と
ぼくはずっと、彼を知らないでいた。
知らなかった期間が長すぎたから、これからも知らないでいるふりをしてしまうのだろう。
題:心のざわめき