シャイロック

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5/14/2025, 3:24:37 AM

記憶の海

 こんなに次から次へと、昔のことを思い出すなんて、わしもそろそろお迎えがくるのかのぉ。
 ちっちゃな頃の両親の顔なんて、忘れていた。おじいちゃんとか、ひいじいちゃんとか、たぶんそのへんの人も思い出した。本家の伯父さんも居たな。
 こうして目を瞑っていると、知らない人や場所も見えるが、この人たちと会ったり、ここに旅行に行ったりもしたのかも知れん。
 あーまるで、記憶の海じゃ。
 もしかしたらこれが、死ぬ前に見る「走馬燈」というやつか!

No.197

5/13/2025, 3:31:42 AM

ただ君だけ

お金もいらない
名誉もいらない
友だちもいらない
この広い世の中に
ただ君だけ居てくれれば良い


なーんて言われたかったなぁ!

No.196

5/12/2025, 7:34:06 AM

未来への船

 新しい船が出来上がった。街中大喜びだ。この船に乗れば、新しいところに行ける!
 だが、これから抽選があり1000人選ばれる。当たれば大金を支払う。だから当たっても乗れる人間はわずかだ。それなのに、みな競って抽選に参加したがる。たぶん、当たれば船に乗れなくても良いことが有ると思っているのだろう。
 かく言う私も、姉と抽選に出かけた。もう70才なんだから、新天地に行けても、そんなに長くないかも知れない。化学物質や大気汚染で、この国の平均寿命は65才だ。
 抽選会場は、ぐるぐると取り囲む抽選待ちの人で、何日かかるか分からない。「カエデ、私はもういいわ。こんなに待てない」と、姉は帰ってしまった。
 やっと私の番が来たのは、丸一日経ってからだった。でも、後ろにもまだすごい人数が待っていたから、まだ運がいいのかも知れない。
 抽選は、手の甲に何やらピッとされたが、無色透明で、どこかも分からなくなった。でも、手を洗ってもだいじょうぶだと言われた。発表は5日後で、この無色透明のがオレンジに光ったら乗船事務所に来いとパンフレットに書いてある。
 その日が来た。何時から発表だったかな?などと呑気なことを考えていたら、外で歓声が上がった。「わ〜い、当たった!当たったぞ~!」と、手の甲を見せながら喜びあっている人が、3人見えた。
 そうか、当たったのね。自分の手の甲をみたが、光っていなかった。
 こうして未来への船は、何日か後にまた1000人乗せて旅立つのだろう。私はもういいわ。この街も汚いけれど悪くはない。
 
No.195

5/11/2025, 3:54:23 AM

静かなる森へ

 【静かなる森へ、やたらと踏み入ってはいけません。静かなのには、理由が有るのです】
 オレが生まれた村には、山が並んでいたけど、そのうちの一つには、誰も入ってはいけない森があった。村人は全部、暗黙の了解で行かなかった。
 だがある日、土地開発の営業マンが、その森を見せてくれと言ってきた。
 「その森には、誰も入らねぇ。悪いことが起きるんだ。他の山の他の森ならいい。あそこだけはダメだ」村の長老が言った。
 「パッと見、あの森の傾斜とか樹の生え具合が、住宅地にちょうど良いんですけどね」
とかなんとか、けっこう食い下がっていたが、長老は断固として首を縦に振らなかったから、結局、営業マンは帰って行った。
 オレは、それを見ていて、イヤな予感がしたんだよな。
 それから3日ぐらいしたら、例の営業マンの会社の人間がやって来て、彼を知らないかと言う。長老に断固として断られて帰って行ったと、口々に言われて「いい土地があるからこの村に行くと言っていたのですが、あの日帰社せず、それっきり・・・部屋にも居ないし」とにかく、みんな何も知らない。それは本当だ。
 オレが思うに、あいつはあの後、誰にも見つからないようにあの森に入ったんだろうな。バカなやつだ。あの森に入ると、人は跡形もなく消えてしまう。どこかで倒れているとかではなく、完全に消えてしまうのだ。
 何十年か前、一人入ったやつが居て、祈祷師を何人も連れて探したが、さほど大きい森ではないのに見つからなかった。
 だからダメだと、長老があれほど言ったじゃないか!

No.194

5/10/2025, 4:24:00 AM

夢を描け

 もう夢なんか無い。無い!無い!無い!
それどころじゃないから。
 なんかさぁ、アタイやばいバイトに手を出しちゃったみたいで、脅かされてるんだけど。
「いいか?今はなぁマグロ漁船に乗せるなんて流行らねんだよ。今はな、フィリピンでかけ子だ。フィリピン行くか?一生帰れねぇかも知れないけどな」
 それが嫌なら、名前も知らなかったんだけど、ちっこい町の宝石店襲って来いってさ。
 そんなこと言われながら見張られてるから、この部屋出られないし、同じこと言われてる子が、あと3人もいる。
 フィリピンでかけ子だなんて、アタイ未経験ですけど、だいじょうぶですか?って、そんなこと言ってる場合じゃないね。
 外が暗くなりかけたら、パンとおにぎり1個ずつくれたけど、たんぱく質も食物繊維もビタミンも少ないじゃん。アタイこれでも、栄養のバランスには気をつけてるんだ。
 でも、仕方ないからそれ食べて、うとうとしちゃってた。
 急に明るくなったのは、外からも、大きな明るいライトで照らされてたからだった。警察だ!って、警察の人も見張りの人も同時に叫んだのが可笑しかった。って、笑っている場合じゃなかった。
 みんな、アタイもだけど、みんな捕まった。警察に連れてかれて、お巡りさんにいろいろ聞かれて、もう、軽率にバイトアプリでポチッとしちゃダメだよ。って言われてシャクホー?された。
 今度から、少し真面目に仕事したら、アタイも新しい夢が見られるかなぁ? 

No.193

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