静かなる森へ
【静かなる森へ、やたらと踏み入ってはいけません。静かなのには、理由が有るのです】
オレが生まれた村には、山が並んでいたけど、そのうちの一つには、誰も入ってはいけない森があった。村人は全部、暗黙の了解で行かなかった。
だがある日、土地開発の営業マンが、その森を見せてくれと言ってきた。
「その森には、誰も入らねぇ。悪いことが起きるんだ。他の山の他の森ならいい。あそこだけはダメだ」村の長老が言った。
「パッと見、あの森の傾斜とか樹の生え具合が、住宅地にちょうど良いんですけどね」
とかなんとか、けっこう食い下がっていたが、長老は断固として首を縦に振らなかったから、結局、営業マンは帰って行った。
オレは、それを見ていて、イヤな予感がしたんだよな。
それから3日ぐらいしたら、例の営業マンの会社の人間がやって来て、彼を知らないかと言う。長老に断固として断られて帰って行ったと、口々に言われて「いい土地があるからこの村に行くと言っていたのですが、あの日帰社せず、それっきり・・・部屋にも居ないし」とにかく、みんな何も知らない。それは本当だ。
オレが思うに、あいつはあの後、誰にも見つからないようにあの森に入ったんだろうな。バカなやつだ。あの森に入ると、人は跡形もなく消えてしまう。どこかで倒れているとかではなく、完全に消えてしまうのだ。
何十年か前、一人入ったやつが居て、祈祷師を何人も連れて探したが、さほど大きい森ではないのに見つからなかった。
だからダメだと、長老があれほど言ったじゃないか!
No.194
5/11/2025, 3:54:23 AM