未来への船
新しい船が出来上がった。街中大喜びだ。この船に乗れば、新しいところに行ける!
だが、これから抽選があり1000人選ばれる。当たれば大金を支払う。だから当たっても乗れる人間はわずかだ。それなのに、みな競って抽選に参加したがる。たぶん、当たれば船に乗れなくても良いことが有ると思っているのだろう。
かく言う私も、姉と抽選に出かけた。もう70才なんだから、新天地に行けても、そんなに長くないかも知れない。化学物質や大気汚染で、この国の平均寿命は65才だ。
抽選会場は、ぐるぐると取り囲む抽選待ちの人で、何日かかるか分からない。「カエデ、私はもういいわ。こんなに待てない」と、姉は帰ってしまった。
やっと私の番が来たのは、丸一日経ってからだった。でも、後ろにもまだすごい人数が待っていたから、まだ運がいいのかも知れない。
抽選は、手の甲に何やらピッとされたが、無色透明で、どこかも分からなくなった。でも、手を洗ってもだいじょうぶだと言われた。発表は5日後で、この無色透明のがオレンジに光ったら乗船事務所に来いとパンフレットに書いてある。
その日が来た。何時から発表だったかな?などと呑気なことを考えていたら、外で歓声が上がった。「わ〜い、当たった!当たったぞ~!」と、手の甲を見せながら喜びあっている人が、3人見えた。
そうか、当たったのね。自分の手の甲をみたが、光っていなかった。
こうして未来への船は、何日か後にまた1000人乗せて旅立つのだろう。私はもういいわ。この街も汚いけれど悪くはない。
No.195
5/12/2025, 7:34:06 AM