ひらり
城趾の石の上に2人並んで座ろうとした時だった。彼が、真っ白いハンカチを広げて、私の座るところにひらりと置いた。
「いいよ、乾いてるし」
「いいから座ってよ」
「いや、悪いから」
「ナイトっぽくてカッコいいなって、1回やりたかったんだ」
「すんごく座りにくいの!分からない?」
思わす私が気色ばんだので、さすがに彼はハンカチを引っ込めた。
ご親切にありがとう、とはいかない。まして、そこに座るのは無理。人のハンカチに自分のお尻を乗せるなんて、居心地が悪すぎて、ずっと立っていたほうがマシだ。
ここが欧米で、彼や私が日本人じゃなかったら、ごく自然にコトが流れるのかも知れないけど、私たちじゃ無理。
彼にハンカチひらりは、100年早いって!
No.126
誰かしら?
ある晴れた日のことだった。一通り家事を終えて、私は、リビングのテーブルでコーヒーを飲んでいた。晴れて気持ちのいい日は、よくこうする。
リビングの窓がうちで1番大きく、掃き出しになっているので、高さもある。大きいとは言え、一間(180センチメートル)程度の窓だけど、庭の隅の紫陽花や、奥にあるダイダイの木が鮮やかに見える。足元にはオキザリスもある。西洋シャクナゲも時期が来ると、誇らしげに花開く。
そんな景色を、のんびり眺めている時だった。紫陽花の植え込みの奥を、人が通って行った気がした。
「誰かしら?」
白昼だったからか気が大きくなり、リビングの窓を大解放して「どなたぁ?」と叫んだが、誰も出て来る気配が無く、諦めて施錠した。
その後も何度か、その影を見た。どうも背格好から子ともじゃないかと思ったら、不気味さとか怖さは無くなった。
お〜い、お菓子あげるよ〜!おいでよ〜!
とも言ってみたが、誰も来ない。
そのうちに、誰でもいいと思い始めた。もしかしたら、この庭に住み着いた妖精さんかも知れない。干した洗濯物に悪さをするわけでなく、庭の草木を傷めるわけでもないから、「また来てるのね!」と、言葉に出さないが歓迎するようになった。
心なしか、ダイダイやシャクナゲが生き生きしてきた気がする。花はまだだが、木に力が出てきたというか、良いことだね
No.125
芽吹きの時
高校生の時、春爛漫の日曜日に、僕は倒れた。
自分の部屋に居たら、急に目の前が真っ白になり、何も分からなくなった。芽吹きの時は、僕みたいに倒れたり、変な人が出たり、って、よくあるらしいよ。それが、自分でもびっくりしたんだけど、目の前が真っ暗になるってよく言うけど、僕は、本当にハレーション起こしたように、目の前が真っ白だった。
倒れたことが有る人って、沢山いるのかどうか知らないけど、真っ暗だったか真っ白だったか教えて欲しいな。
とにかく、僕はそのまま入院し、高校3年生の大切な時期を棒に振った。でも、親の期待でプレッシャーがキツかったので、「病気だから仕方ないね」と、両親も自分も諦めることができた。
なんだか、緩い公立高校に入ったんだけど、そこがすごく自分に合っていて、そこから開校以来、と言われる難関大学に入った。のびのびやれたんだろうな。
芽吹きの時のアクシデントは、僕の人生に良い感じに影響してくれた。人生、分からないもんだね。
No.124
あの日の温もり
人の手の温もりは本当に「手当て」だね。
大学病院で大きな検査をしてもらったんだけど、麻酔してはいるものの、何とも言えない違和感が来るし、何しろ麻酔が痛い。
先生の助手についた看護師さんは、まだ若くて可愛かった。その子が、私が痛いだろうという場面で、私の肩口から手を擦ってくれるのだ。マッサージほどの力でもないし、優しく擦っているだけなのだが、彼女の優しさに涙が出た。何の役にも立たないことは分かってるけど、少しでも気持ちや痛みが和らいで!という気持ちなのだと思う。
彼女に「ありがとう」と伝えたら、にっこり笑ってくれた。あの小さな温もりは、正に手当てだった。
うちに帰ってその話をしたら、娘も、ちょっと私が参っていると擦ってくれるようになった。これも大きな喜びとなる。
No.123
cute!
猫を迎え入れた。
友人の家で生まれた5匹のうちから、1匹選んでと言われて見せてもらいに行ったのだ。5匹のうち、1番変な模様の愛嬌のある猫だ。
一人暮らしの女性が猫を飼ったら、もう誰とも付き合えないと言われているのは知っているが、猫は実家でも飼っていて好きだから。
仔猫は、まだ手の平に乗るほど小さくて、可愛くて可愛くて、こちらに向かって歩いてくる姿も、どこかに行こうと見せる後ろ姿も、もぉホントにキュート!柔らかな体毛のもふもふも好きで、ずっと撫でていたい。
別に、一生男性と付き合わなくてもいいかと思わせる、可愛い家族、迎えて良かった!
No.122