記録
家族の記録を、写真でしか残さなかったことで後悔している。テレビ番組で、子どもの運動会やら学芸会の記録が、媒体が変わってしまって、見られなくなったと言っていた。そして、見事に見られるようになった記録を見て涙していた。
そうか!動くっていうのは、感動なんだ!
結婚式でも、2人の幼い頃の動画や写真をコラージュして、参列者が感動するではありませんか。
でも、後の祭りで今さらどうにもならない。動画から写真を切り取ることは出来るが、写真から動画には出来ないもんね。
それで最近ちょっと凹んでいる。
No.121
さぁ冒険だ
もう、冒険に行くことはない。誘われても、行かない。大人になって超慎重になったのと、心臓が悪くなっていることもあり、無駄なドキドキは避けたい。つまらないねぇ!
まぁ、冒険は子どもの特権かな?子どもが冒険に出発するおとぎ話はいっぱい有るけど、みんな喜んで「行ってらっしゃい!」と見送るよね。鬼と戦ったり、強い熊と戦ったり、ずる賢いたぬきと戦ったりするのが、親は心配ではないのだろうか。ましてやおじいちゃんおばあちゃんの立場の人は、孫かわいさに必死で止めるのではないかなと思うんだけど。強い、勇敢な孫が自慢だから?
私だったら、今一緒に暮らしているドラ息子と、頑張って家事をしてくれる娘がいるけど、どっちも、戦いに送り出すことは出来ない。まぁ、せいぜいが外国に行きたいなら受け入れるかも知れないけど、長いことだと、心配で心配でしょうがないと思う。
そういうワケで、我が家は夫も私も子どもたちも含めて、冒険に行くということは無いと思う。
No.120
一輪の花
私は、花を枯れさせる天才(娘談)なので、花は買わない。これなら良いかと買ってきたカクタスは、水をあまりあげなくてもいいのに、そして、あげすぎたわけじゃないのに枯れた。
数年前に娘が母の日のプレゼントにくれたのは、水をあげなくてもいい花。おサルの形の小さなタンクがついていて、適量ずつ出るようになっていた。でも枯れた。
そんな私が、何を思ったか、庭に咲いた一輪の花をリビングに飾った。白い清楚な花だった。
「・・・?」
何か臭う!なんとなく臭う!
飾った花を調べたら、花ニラだった。ニラの臭いがするからこの名前になったらしい。あーぁ、私のやることはこんなもんである。
No.119
魔法
魔法や、猫型ロボットのひみつ道具など、出てくる映画も小説も漫画も、どうも苦手だ。どうしてもご都合主義というか「なんでも有り」になりそうで。つまり、脚本家や原作者が、面白いものにするために(それはよく分かる)こうしたいな、と思ったら、それに合わせた道具や魔法を考えるんじゃないかなって思っちゃう。
あーいやな大人になりました。現実をいっぱい見ちゃってるからね。
ただ1つだけ魔法を使いたいことがある。数年前に亡くなった妹と話がしたい。急逝したので、何の話も出来なくて、なにも聞けなかったから。生き返らせて、なんて無茶は言いませんが、ちょっとでいいから話せたらな。
No.118
君と見た虹
結婚して二年、ミチヨシがリストラされてきた。「ごめん、会社苦しいから、子持ちじゃないオレが辞めてくれって、立花さんが泣いて頭を下げるんだ。見ていて辛くて『分かりました』って言ってしまった」
ミチヨシは人が良い。良すぎる。立花さんが泣いて頭を下げるのを見ているのが辛いからって、うちのこの先の生活はどうするの?
だけど、私も多分、人に泣いて頭を下げられたら「分かりました」って言っちゃうだろうなぁ。似たもん夫婦だね。
「辞めるの決めたんだからしょうがないね。いつまで今の会社?」
「末締めだから、月末」
「それじゃ、私は〇〇スーパーのパート、時間増やしてもらう。ミっちゃんは新しい仕事探してね」
「うん、もちろんだよ」
不安はある。今までの会社はけっこう手取りが良かったから貯金もしていたけど、それを切り崩す感じかな。
うん!決まったことだからしょうがない。私の腕の見せ所だね!
洗濯物が揺れているのを見て、風が出てきたなと思った。さっきまで霧雨が降っていたけど、うちは軒が長いから放置していた。でも風で雨が吹き込むから、中に入れなきゃ。
ピンチハンガーごと部屋に入れた時だった。洗濯物が無くなった窓いっぱいに、真正面に虹が見えた。雨止んでたんだ。
「ミっちゃん、ミっちゃん、見て、虹だよ!」
「うわぁ、ホントだ。きれいだな」
「なんか、幸先がいいね」
「そうだな」
「きっと良いことあるよ」
「オレさぁ、ユリカと結婚して良かったよ。こんなとき、ぎゃーぎゃー言うやつだったら、もっと辛いもんな」
「なに言ってんのよ。私はミっちゃん好きだから結婚したんだよ。ミっちゃんが決めたことだから頑張る」
「一生忘れない。この先、もっとたいへんなことが起きても、この虹思い出したら頑張れる気がする」
「私もだよ」
いつの間にか二人、手を繋いでいた。握りしめたミチヨシの手は、大きくて温かかった。
No.117