シャイロック

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君と見た虹
 
 結婚して二年、ミチヨシがリストラされてきた。「ごめん、会社苦しいから、子持ちじゃないオレが辞めてくれって、立花さんが泣いて頭を下げるんだ。見ていて辛くて『分かりました』って言ってしまった」
 ミチヨシは人が良い。良すぎる。立花さんが泣いて頭を下げるのを見ているのが辛いからって、うちのこの先の生活はどうするの?
 だけど、私も多分、人に泣いて頭を下げられたら「分かりました」って言っちゃうだろうなぁ。似たもん夫婦だね。
 「辞めるの決めたんだからしょうがないね。いつまで今の会社?」
「末締めだから、月末」
「それじゃ、私は〇〇スーパーのパート、時間増やしてもらう。ミっちゃんは新しい仕事探してね」
「うん、もちろんだよ」
 不安はある。今までの会社はけっこう手取りが良かったから貯金もしていたけど、それを切り崩す感じかな。
 うん!決まったことだからしょうがない。私の腕の見せ所だね!
 洗濯物が揺れているのを見て、風が出てきたなと思った。さっきまで霧雨が降っていたけど、うちは軒が長いから放置していた。でも風で雨が吹き込むから、中に入れなきゃ。
 ピンチハンガーごと部屋に入れた時だった。洗濯物が無くなった窓いっぱいに、真正面に虹が見えた。雨止んでたんだ。
「ミっちゃん、ミっちゃん、見て、虹だよ!」
「うわぁ、ホントだ。きれいだな」
「なんか、幸先がいいね」
「そうだな」
「きっと良いことあるよ」
「オレさぁ、ユリカと結婚して良かったよ。こんなとき、ぎゃーぎゃー言うやつだったら、もっと辛いもんな」
「なに言ってんのよ。私はミっちゃん好きだから結婚したんだよ。ミっちゃんが決めたことだから頑張る」
「一生忘れない。この先、もっとたいへんなことが起きても、この虹思い出したら頑張れる気がする」
「私もだよ」
 いつの間にか二人、手を繋いでいた。握りしめたミチヨシの手は、大きくて温かかった。

No.117

2/23/2025, 2:16:44 AM