夜空を駆ける
真っ赤なお鼻のトナカイは、いつもみんなの笑いものでしたが、サンタクロースさんの
ご指名により、プレゼントを届けに行くご用を申し使ったのです。サンタクロースさんはフィンランドにたーくさん居て、それぞれ1頭のトナカイに引かせて目的地まで行くのです。
さて、このお話には続きがあったとかなかったとか・・・。
クリスマス直前に「お前の光ってる鼻が、夜道を照らしてくれるだろう!頼むぞ」と言われたものの、急すぎて心の準備ができません。
「あの、えーとボクは何をすればいいのですか?」「なにをすれば?って、いつも通り、私の言う通りに走ってくれたら、それで良いのだ」「ボクは旧式なので、トナナビ付いてませんけどだいじょうぶですか」「安心しろ、ワシはナビになど頼ったことはない」「ボク、だいじょうぶかなぁ」「自信を持て!お前の鼻の光は本当に明るいし、普通に走れたらそれでいい」
ぐずぐず迷っていたトナカイは決心しました。やるしかない!そして、サンタクロースさんとタッグを組んでプレゼントを届ける旅に出発しました。
クリスマス・イブからクリスマス、夜空を駆けるトナカイの中でも、赤い明るい光が見えるのが彼らです。
No.116
ひそかな思い
恋はいつも、ひそかな思いからスタートする。一目ぼれにしても、徐々に距離が縮まったにしても、心に小さな火が灯ったような甘い優しい気持ちになる。
思えば、ひそかな思いを抱えている間が、一番幸せなのかもしれない。
恋が成立してしまうと、嫉妬したり、自分ではそのつもりはなくても、駆け引きや葛藤で泣いたり笑ったりするから。
今さら恋でもあるまいが、なんとも懐かしい感情を思い出させてもらった。
No.115
あなたは誰
急に、母が言った。
「あなたは誰?」
「えっ?」
「『え』じゃないわよ。急に人の家に入って来て、冷蔵庫開けるなんて」
母から頼まれた買い物をして来たのに。
「お母さん、冗談でしょう?」
「お母さんだなんて、なんのつもり?」
「・・・。」
母はまだ63歳だ。少し早くないかな?
でも、こうなった人に、
私よ!私!自分の娘なのに分からない?とか
ボケちゃったの?
とか、言っちゃいけないそうだね。
私は、深呼吸して気持ちを落ち着け、
「おうちを間違えたみたいです。帰ります」と言った。すると母は、
「分かればいいのよ、さようなら」と、警察に届ける気までは無いようで、すんなり見送ってくれた。
玄関から外に出て、私はどうしようかとしばらく考えた。それで、家の周りを15分ほど歩いてから、もう一度玄関を開けて「ただいま〜!」
すると、母が出てきて、
「由美子、遅かったじゃないの。お豆腐と牛乳買ってきてくれた?」だって!さっきはあなたは誰?って言ったくせに!
でも、私は少しホッとした。こうやって少しずつ進んでいくんだろうけど、今からお医者さんに行けば、少し進行を遅らせることが出来るかも知れないから。
No.114
手紙の行方
愛を込めて書いた手紙をポストに入れたんだけど、ユウキのところに届かなかった。何故かは分からない。
ユウキに会ったとき「私のラブレター読んだ?」と照れながら聞いたら「えっ?貰ってないよ」と言われてしまった。すごくショックだった。
私の手紙はどこに行ったの?郵便局の人がポストから集配したときに、風で飛んじゃった?いや、そんなはずはないか。
今はメールやLINEの時代だから、手紙をもらうと愛が深まるって、読んだ雑誌に書いてあったの。だから、一生懸命書いたのに。
それより、誰かが拾って読んだらどうしよう?うわっ、はずっ!
ユウキに聞いたのが昨日で、まだ私の手紙は届かないみたい。代わりにユウキが小さなカードをくれた。
「手紙がどうなっていても、ユイを愛してることにかわりはないよ」
えへへ〜、もう手紙の行方はどうでもいいやぁ。ユウキ大好き!
No.113
輝き
ワシにあの頃の輝きはもう無い。なんでも出来て、何でも手に入ったあの頃。もう何十年前だったのかも忘れたが。
ワシは一族の長として、何百人も統制していた。皆、どんな小さなことでもワシに相談し、ワシの許可が出てから動いていた。
ワシは一番大きな飾りの付いた帽子を被っていた。それが一族の長のシルシだからだ。衣装も、代々受け継がれた豪華な衣装だ。女たちがうらやましがって、その衣装に頬を擦り付けたものだ。そしてワシに、妻の座を狙って擦り寄ってきたものだ。
一夫多妻制だから、妻は十指に余った。ワシはその者たちの名を全部覚えていたし、平等に愛し、子も24人?いや34人だったかな、まぁそのぐらいもうけた。
ワシが長になったのは、後ろに見える火山から現れたからだ。自分でも何故かは分からないのだが、熱い溶岩の中から現れたと言われている。そして、ワシが長になってから半世紀経って、別な者がまた溶岩の中から現れ、長は交代になった。一族の言い伝えでそうなっているからだ。
そうか、分かったぞ!ワシがもう一度溶岩の中から現れれば、また長になれるということだ。
あの頃の輝きを取り戻すために、ワシは火山に向かって行くぞ!
(その後、一族の中で彼を見たものは居ない)
No.112