一輪の花
私は、花を枯れさせる天才(娘談)なので、花は買わない。これなら良いかと買ってきたカクタスは、水をあまりあげなくてもいいのに、そして、あげすぎたわけじゃないのに枯れた。
数年前に娘が母の日のプレゼントにくれたのは、水をあげなくてもいい花。おサルの形の小さなタンクがついていて、適量ずつ出るようになっていた。でも枯れた。
そんな私が、何を思ったか、庭に咲いた一輪の花をリビングに飾った。白い清楚な花だった。
「・・・?」
何か臭う!なんとなく臭う!
飾った花を調べたら、花ニラだった。ニラの臭いがするからこの名前になったらしい。あーぁ、私のやることはこんなもんである。
No.119
魔法
魔法や、猫型ロボットのひみつ道具など、出てくる映画も小説も漫画も、どうも苦手だ。どうしてもご都合主義というか「なんでも有り」になりそうで。つまり、脚本家や原作者が、面白いものにするために(それはよく分かる)こうしたいな、と思ったら、それに合わせた道具や魔法を考えるんじゃないかなって思っちゃう。
あーいやな大人になりました。現実をいっぱい見ちゃってるからね。
ただ1つだけ魔法を使いたいことがある。数年前に亡くなった妹と話がしたい。急逝したので、何の話も出来なくて、なにも聞けなかったから。生き返らせて、なんて無茶は言いませんが、ちょっとでいいから話せたらな。
No.118
君と見た虹
結婚して二年、ミチヨシがリストラされてきた。「ごめん、会社苦しいから、子持ちじゃないオレが辞めてくれって、立花さんが泣いて頭を下げるんだ。見ていて辛くて『分かりました』って言ってしまった」
ミチヨシは人が良い。良すぎる。立花さんが泣いて頭を下げるのを見ているのが辛いからって、うちのこの先の生活はどうするの?
だけど、私も多分、人に泣いて頭を下げられたら「分かりました」って言っちゃうだろうなぁ。似たもん夫婦だね。
「辞めるの決めたんだからしょうがないね。いつまで今の会社?」
「末締めだから、月末」
「それじゃ、私は〇〇スーパーのパート、時間増やしてもらう。ミっちゃんは新しい仕事探してね」
「うん、もちろんだよ」
不安はある。今までの会社はけっこう手取りが良かったから貯金もしていたけど、それを切り崩す感じかな。
うん!決まったことだからしょうがない。私の腕の見せ所だね!
洗濯物が揺れているのを見て、風が出てきたなと思った。さっきまで霧雨が降っていたけど、うちは軒が長いから放置していた。でも風で雨が吹き込むから、中に入れなきゃ。
ピンチハンガーごと部屋に入れた時だった。洗濯物が無くなった窓いっぱいに、真正面に虹が見えた。雨止んでたんだ。
「ミっちゃん、ミっちゃん、見て、虹だよ!」
「うわぁ、ホントだ。きれいだな」
「なんか、幸先がいいね」
「そうだな」
「きっと良いことあるよ」
「オレさぁ、ユリカと結婚して良かったよ。こんなとき、ぎゃーぎゃー言うやつだったら、もっと辛いもんな」
「なに言ってんのよ。私はミっちゃん好きだから結婚したんだよ。ミっちゃんが決めたことだから頑張る」
「一生忘れない。この先、もっとたいへんなことが起きても、この虹思い出したら頑張れる気がする」
「私もだよ」
いつの間にか二人、手を繋いでいた。握りしめたミチヨシの手は、大きくて温かかった。
No.117
夜空を駆ける
真っ赤なお鼻のトナカイは、いつもみんなの笑いものでしたが、サンタクロースさんの
ご指名により、プレゼントを届けに行くご用を申し使ったのです。サンタクロースさんはフィンランドにたーくさん居て、それぞれ1頭のトナカイに引かせて目的地まで行くのです。
さて、このお話には続きがあったとかなかったとか・・・。
クリスマス直前に「お前の光ってる鼻が、夜道を照らしてくれるだろう!頼むぞ」と言われたものの、急すぎて心の準備ができません。
「あの、えーとボクは何をすればいいのですか?」「なにをすれば?って、いつも通り、私の言う通りに走ってくれたら、それで良いのだ」「ボクは旧式なので、トナナビ付いてませんけどだいじょうぶですか」「安心しろ、ワシはナビになど頼ったことはない」「ボク、だいじょうぶかなぁ」「自信を持て!お前の鼻の光は本当に明るいし、普通に走れたらそれでいい」
ぐずぐず迷っていたトナカイは決心しました。やるしかない!そして、サンタクロースさんとタッグを組んでプレゼントを届ける旅に出発しました。
クリスマス・イブからクリスマス、夜空を駆けるトナカイの中でも、赤い明るい光が見えるのが彼らです。
No.116
ひそかな思い
恋はいつも、ひそかな思いからスタートする。一目ぼれにしても、徐々に距離が縮まったにしても、心に小さな火が灯ったような甘い優しい気持ちになる。
思えば、ひそかな思いを抱えている間が、一番幸せなのかもしれない。
恋が成立してしまうと、嫉妬したり、自分ではそのつもりはなくても、駆け引きや葛藤で泣いたり笑ったりするから。
今さら恋でもあるまいが、なんとも懐かしい感情を思い出させてもらった。
No.115