シャイロック

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2/24/2025, 6:10:34 AM

魔法

 魔法や、猫型ロボットのひみつ道具など、出てくる映画も小説も漫画も、どうも苦手だ。どうしてもご都合主義というか「なんでも有り」になりそうで。つまり、脚本家や原作者が、面白いものにするために(それはよく分かる)こうしたいな、と思ったら、それに合わせた道具や魔法を考えるんじゃないかなって思っちゃう。
 あーいやな大人になりました。現実をいっぱい見ちゃってるからね。
 ただ1つだけ魔法を使いたいことがある。数年前に亡くなった妹と話がしたい。急逝したので、何の話も出来なくて、なにも聞けなかったから。生き返らせて、なんて無茶は言いませんが、ちょっとでいいから話せたらな。

No.118

2/23/2025, 2:16:44 AM

君と見た虹
 
 結婚して二年、ミチヨシがリストラされてきた。「ごめん、会社苦しいから、子持ちじゃないオレが辞めてくれって、立花さんが泣いて頭を下げるんだ。見ていて辛くて『分かりました』って言ってしまった」
 ミチヨシは人が良い。良すぎる。立花さんが泣いて頭を下げるのを見ているのが辛いからって、うちのこの先の生活はどうするの?
 だけど、私も多分、人に泣いて頭を下げられたら「分かりました」って言っちゃうだろうなぁ。似たもん夫婦だね。
 「辞めるの決めたんだからしょうがないね。いつまで今の会社?」
「末締めだから、月末」
「それじゃ、私は〇〇スーパーのパート、時間増やしてもらう。ミっちゃんは新しい仕事探してね」
「うん、もちろんだよ」
 不安はある。今までの会社はけっこう手取りが良かったから貯金もしていたけど、それを切り崩す感じかな。
 うん!決まったことだからしょうがない。私の腕の見せ所だね!
 洗濯物が揺れているのを見て、風が出てきたなと思った。さっきまで霧雨が降っていたけど、うちは軒が長いから放置していた。でも風で雨が吹き込むから、中に入れなきゃ。
 ピンチハンガーごと部屋に入れた時だった。洗濯物が無くなった窓いっぱいに、真正面に虹が見えた。雨止んでたんだ。
「ミっちゃん、ミっちゃん、見て、虹だよ!」
「うわぁ、ホントだ。きれいだな」
「なんか、幸先がいいね」
「そうだな」
「きっと良いことあるよ」
「オレさぁ、ユリカと結婚して良かったよ。こんなとき、ぎゃーぎゃー言うやつだったら、もっと辛いもんな」
「なに言ってんのよ。私はミっちゃん好きだから結婚したんだよ。ミっちゃんが決めたことだから頑張る」
「一生忘れない。この先、もっとたいへんなことが起きても、この虹思い出したら頑張れる気がする」
「私もだよ」
 いつの間にか二人、手を繋いでいた。握りしめたミチヨシの手は、大きくて温かかった。

No.117

2/22/2025, 5:19:28 AM

夜空を駆ける

 真っ赤なお鼻のトナカイは、いつもみんなの笑いものでしたが、サンタクロースさんの
ご指名により、プレゼントを届けに行くご用を申し使ったのです。サンタクロースさんはフィンランドにたーくさん居て、それぞれ1頭のトナカイに引かせて目的地まで行くのです。
 さて、このお話には続きがあったとかなかったとか・・・。
 クリスマス直前に「お前の光ってる鼻が、夜道を照らしてくれるだろう!頼むぞ」と言われたものの、急すぎて心の準備ができません。
 「あの、えーとボクは何をすればいいのですか?」「なにをすれば?って、いつも通り、私の言う通りに走ってくれたら、それで良いのだ」「ボクは旧式なので、トナナビ付いてませんけどだいじょうぶですか」「安心しろ、ワシはナビになど頼ったことはない」「ボク、だいじょうぶかなぁ」「自信を持て!お前の鼻の光は本当に明るいし、普通に走れたらそれでいい」
 ぐずぐず迷っていたトナカイは決心しました。やるしかない!そして、サンタクロースさんとタッグを組んでプレゼントを届ける旅に出発しました。
 クリスマス・イブからクリスマス、夜空を駆けるトナカイの中でも、赤い明るい光が見えるのが彼らです。

No.116

2/21/2025, 3:40:48 AM

ひそかな思い

 恋はいつも、ひそかな思いからスタートする。一目ぼれにしても、徐々に距離が縮まったにしても、心に小さな火が灯ったような甘い優しい気持ちになる。
 思えば、ひそかな思いを抱えている間が、一番幸せなのかもしれない。
 恋が成立してしまうと、嫉妬したり、自分ではそのつもりはなくても、駆け引きや葛藤で泣いたり笑ったりするから。
 今さら恋でもあるまいが、なんとも懐かしい感情を思い出させてもらった。

No.115

2/20/2025, 3:56:01 AM

あなたは誰

 急に、母が言った。
「あなたは誰?」
「えっ?」
「『え』じゃないわよ。急に人の家に入って来て、冷蔵庫開けるなんて」
母から頼まれた買い物をして来たのに。
「お母さん、冗談でしょう?」
「お母さんだなんて、なんのつもり?」
「・・・。」
母はまだ63歳だ。少し早くないかな?
でも、こうなった人に、
私よ!私!自分の娘なのに分からない?とか
ボケちゃったの?
とか、言っちゃいけないそうだね。
私は、深呼吸して気持ちを落ち着け、
「おうちを間違えたみたいです。帰ります」と言った。すると母は、
「分かればいいのよ、さようなら」と、警察に届ける気までは無いようで、すんなり見送ってくれた。
 玄関から外に出て、私はどうしようかとしばらく考えた。それで、家の周りを15分ほど歩いてから、もう一度玄関を開けて「ただいま〜!」
 すると、母が出てきて、
「由美子、遅かったじゃないの。お豆腐と牛乳買ってきてくれた?」だって!さっきはあなたは誰?って言ったくせに!
 でも、私は少しホッとした。こうやって少しずつ進んでいくんだろうけど、今からお医者さんに行けば、少し進行を遅らせることが出来るかも知れないから。

No.114

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