シャイロック

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2/9/2025, 5:17:18 AM

遠く....

 展望台や展望タワーが苦手だ。
 高所恐怖症だからなのだが、その理由がおかしいと友人に言われる。
 高いところから下を見下ろすと、怖い。背中からお尻にかけて、ゾワッとする。多分そこまでは、高所恐怖症の人はみんなだろう。
 ところが、田んぼが広がっていたり、ビルの屋上が広く見えたりすると、そこまで簡単に飛べそうな気がしてしまう。
 ここから飛ぶと、ちょうどあのビルの屋上に着地出来そう、と思ってしまう。あの青々とした田んぼの真中に着地したら、気持ちいいだろうな、なんて思ってしまう。
 けっこう大きめの衝動に襲われ、自分を抑えるのに苦労する。そこまでかなりの距離であってもだ。
 上から見ると、距離がそんなに無いように感じるのだ。
「ここから飛べば、遠くまで飛べるかも。遠く....」危ないことこの上ない。
 
No.103

2/8/2025, 3:19:34 AM

誰も知らない秘密

 私には、誰も知らない秘密がある。
 まぁ、誰にも言っていないというだけで、実は特に変わったことではない。秘密というのはオーバーか?
 まず第一の秘密は、私は結婚している。こんな小さな単身者アパートに住んでいるけど、実は夫がいる。
 夫は極端な人見知りで、いっさい外に出ない。私が仕事の帰りに食材を買って帰り、夫が料理してくれる。掃除洗濯等の家事は全部夫だ。ゴミはまとめてくれるので、私が出す。だから、夫は外に出ない。
 夫婦で暮らしていても、両隣の部屋の人には分からない。夫は物音をたてないたちだ。
 そう、これが第二の秘密なんだが、実は夫は聾唖者だ。2人の会話は手話。若い頃手話ボランティアをしていて、それが縁で夫と親密になった。だから、うちからは話し声が漏れないのだ。籍は入れているが、会社には申告していないし、アパートの人にも気付かれない。
 別に秘密にしているつもりはないけど、でもこれが我が家の誰も知らない秘密だね。

No.102

2/7/2025, 4:00:54 AM

静かな夜明け

 なぁゆかりさん、静かすぎるだろう。
 昨日の朝、いつもは私より早く起きる妻が起きてこなかった。疲れているのだろうと寝せておいたが、昼過ぎても起きないので、さすがにおかしいと様子を見に行ったら、死んでいるようだった。
 そこからがたいへんだった。いちおう、近所のかかりつけの先生に来てもらったが、
「あー残念だけど亡くなってるわ。警察に連絡しないとね」と、あまり残念ではない感じで言われた。こういうケースに慣れているのかな。
 それから警察官が5人も来て(こんなに来るもんなんだ)、うち中の写真を撮ったり、あちこち見たりしていた。死んでいた部屋だけじゃないんだ。
 いろいろと質問された。いつも、何時に寝て何時に起きるか(私も妻も)とか、持病はあったのかとか、どうして起こさなかったかとか、夫婦仲はどうだとか、なぜ別の部屋で寝ているのかとか、余計なお世話の質問も多かった。尋問みたいだなと思った。
 だが私は、落ち着いて一つ一つ丁寧に答えた。するとどうだろう。「あまり悲しそうじゃありませんね」一番若い警官がそう言いやがった。私は、思わず椅子から立ち上がり「なんですって」声が荒ぶった。
 「いや、だって、奥さんが亡くなったのに・・・」ベテランらしい警官が慌ててやってきて、「おい、失礼だろう!」
 まぁ、そんなこんなで、妻の検死を終えて、警察官が帰ったら、もうこんな時間になっていた。空が白々と明けかけている。
 なぁゆかりさん、夜明けは静かなものだけど、今日ほど静かだと思ったことはないよ。君がいないからだね。
 ビックリしたよ、悲しいよ、寂しいよ!昨日の昼以来、初めて涙を流した。昼間娘が来た時も、なんだかんだと言いながら号泣していたが、私は泣けなかったのに。
 あぁゆかりさん、いくらなんでも急すぎるよ。滂沱の涙を流して、私は長いこと号泣した。 

No.101

2/6/2025, 4:03:17 AM

heart to heart

 子どもの時に観たSFドラマの中で、宇宙人はまばたきしないので、まばたきをしない人を見つけてはやっつけ、地球に侵略されるのを防ぐというのがあった。
 それがオレの心に、トラウマに近い感じで刻みつけられ、以来、相対して話す人のまばたきを確認しては安心している。
 でも、たった今、オレは宇宙人を見つけてしまった。商談をした相手会社の営業が、30分も話したのに、その間、一度もまばたきしなかった。オレの頭には、途中から商談が全然入ってこなかった。◯◯商事の田中課長が宇宙人だったなんて!
 オレはどうしたら良いんだ?警察に連絡するのもためらわれる。「宇宙人はまばたきしないんです」って言っても笑われるだけだろう。だけど、現実問題として、30分もまばたきしないでいられるか?このままにしておいて、地球侵略されたらどうする?頭が破裂しそうなぐらい考えたが分からなかった。
 ところが!オレが帰社すると、田中課長が先に着いていた。受付で案内を乞うつもりだったようだ。
「田中課長、先ほどはありがとうございました」と声を掛けると、嬉しそうに「あぁ、良かった横山さま、言い忘れたことがありまして」
「おや、なんでしょうか?」
なんとなく移動する田中課長に着いて行くと、ちょうど受付ロビーの真ん中辺に出た。
『私のこと、何か気がついたんですね?』それは、声ではなく、直接オレの中に響いてきた。「え、え?何のことでしょう?」オレは思わず口に出して言っていた。
『あなたが初めてです。私がまばたきしないことに気が付きましたね?』
『あーやっぱり?』心の中で納得しただけなのに、田中課長には伝わったらしい。
『そのやっぱり、なんです』
『ひぇっ、宇宙人?!』
『すみません、このことはどうかご内密に!私にも、家族がおります。地球人の妻と子どもたちです』
『ち、地球侵略しないですか』
『しませんよ。しませんからお願いします』
心の中で考えたら、オレの言葉がちゃんと通じた。田中課長の声も聞こえる。テレパシーというか、心と心で直接通じている。
 こうして会話?していると、田中課長に急激に親近感が湧いた。
「分かりました。安心して下さい」と、口に出してから、今度は『誰にも言いませんよ』と心で言った。
「今回のお取引は、ぜひ御社と契約したいです。よろしくお願いします」と、田中課長も大きな声で言って頭を下げた。その後、
『ありがとうございます』と心で言って、去って行った。
 何故か晴れ晴れとした気分になって、疲れが溜まっていた身体も軽くなった気がする。大口の契約も成立したし、良いことをしたからだろう。

No.100

2/5/2025, 3:20:34 AM

永遠の花束

あなたが私にくれた愛が
私の永遠の花束
どんなプレゼントにも勝る
一生枯れない花束

だから遠慮しないで
去って行っていいの

私はあなたがくれた
永遠の花束をかかえて
一人で生きていく
 
No.99

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