heart to heart
子どもの時に観たSFドラマの中で、宇宙人はまばたきしないので、まばたきをしない人を見つけてはやっつけ、地球に侵略されるのを防ぐというのがあった。
それがオレの心に、トラウマに近い感じで刻みつけられ、以来、相対して話す人のまばたきを確認しては安心している。
でも、たった今、オレは宇宙人を見つけてしまった。商談をした相手会社の営業が、30分も話したのに、その間、一度もまばたきしなかった。オレの頭には、途中から商談が全然入ってこなかった。◯◯商事の田中課長が宇宙人だったなんて!
オレはどうしたら良いんだ?警察に連絡するのもためらわれる。「宇宙人はまばたきしないんです」って言っても笑われるだけだろう。だけど、現実問題として、30分もまばたきしないでいられるか?このままにしておいて、地球侵略されたらどうする?頭が破裂しそうなぐらい考えたが分からなかった。
ところが!オレが帰社すると、田中課長が先に着いていた。受付で案内を乞うつもりだったようだ。
「田中課長、先ほどはありがとうございました」と声を掛けると、嬉しそうに「あぁ、良かった横山さま、言い忘れたことがありまして」
「おや、なんでしょうか?」
なんとなく移動する田中課長に着いて行くと、ちょうど受付ロビーの真ん中辺に出た。
『私のこと、何か気がついたんですね?』それは、声ではなく、直接オレの中に響いてきた。「え、え?何のことでしょう?」オレは思わず口に出して言っていた。
『あなたが初めてです。私がまばたきしないことに気が付きましたね?』
『あーやっぱり?』心の中で納得しただけなのに、田中課長には伝わったらしい。
『そのやっぱり、なんです』
『ひぇっ、宇宙人?!』
『すみません、このことはどうかご内密に!私にも、家族がおります。地球人の妻と子どもたちです』
『ち、地球侵略しないですか』
『しませんよ。しませんからお願いします』
心の中で考えたら、オレの言葉がちゃんと通じた。田中課長の声も聞こえる。テレパシーというか、心と心で直接通じている。
こうして会話?していると、田中課長に急激に親近感が湧いた。
「分かりました。安心して下さい」と、口に出してから、今度は『誰にも言いませんよ』と心で言った。
「今回のお取引は、ぜひ御社と契約したいです。よろしくお願いします」と、田中課長も大きな声で言って頭を下げた。その後、
『ありがとうございます』と心で言って、去って行った。
何故か晴れ晴れとした気分になって、疲れが溜まっていた身体も軽くなった気がする。大口の契約も成立したし、良いことをしたからだろう。
No.100
2/6/2025, 4:03:17 AM